第176話 チョーク絵だと使えない
翌日になると、頼んでいた黒板もできたこともあり、その黒板をもって浜に出てみる。
昨日と同じように、子供たちは一生懸命に俺の頼んだ作業をしている。
「お~い、集まって」
俺は子供たちを集める。
「昨日作ったあれ、硬くなったかな」
「はい、これですが」
俺は白墨を受け取って固さを確認してみる。
俺の知っている白墨とは感じが少し違うが、たぶんこれでも使えるだろう。
もともとからして黒板も違うから、試すしかないか。
俺は、その手にした白墨を使って持ってきた黒板に字を書いてみる。
昨日子供たちと一緒に色々と配合を変えて作ればよかったのだが、とりあえず作った感じなので、出来上がったものも、希望通り色々な品質なものが目の前にあるが、肝心な配合が分からない。
でも、この中で使えるものがあれば今度はきちんと実験していけばどうにかなりそうだと思いなおして、実際に持ってきた黒板を使って試してみる。
「これは、使えるか……もう少し柔らかく?うん表現が難しいがとにかくもう少しって感じだな」
「領主様。
これはどうですか」
子供たちは自分が作っていた白墨を俺に差し出す。
子供たちが差し出した白墨を受け取りながら試していく。
順位付けをするつもりはなかったが、書きやすい順に並べていく。
その後に並べた順に子供たちにも使わせて、俺の感想を伝える。
子供たちは真剣な顔をしながら話を聞いていた。
「この板にこれを使って字を書いていくわけだが、使いやすさっていうのもある。
自分たちの作ったものを使ってみて、どうかな」
「はい、領主様。
書きやすいものと、書きにくいものがあります」
「だろう。
だから、みんなで書きやすいものを作ってみないか」
「どういうことでしょう」
「だから、この事業は君たちに任せようかと考えているんだ。
君たち自身が使いやすいものを作ってみてくれ。
本当に使えるものならば、私が買い取る」
「え、お金を頂けるので」
「ああ、仕事だからな。
それが君たちの仕事となるかな」
俺は、白墨を子供たちの事業としてみようかと考えていた。
自分が最後までかかわると面倒くさいという訳ではない。
確かに時間はないが、これからのことを考えると、自立できる方法がたくさんあるに越したことはない。
俺の話を子供たちは真剣に受け止めてくれたようだ。
子供たちのリーダーのような女の子がうれしそうな顔をしながら返事をしてくれた。
「ありがとうございます、領主様。
次には、使いやすいものを沢山作ります」
「ああ、あとで人を寄こすから、条件面なども相談してくれ。
できた内でこれとこれ、あとこれだけもらっていくから、あとは自由に使って良いから、自分たちで工夫をしてほしい」
「はい、任せてください」
子供たちとの話し合いは無事に終わり、俺は新たな産業の種を手に入れた。
ちょっと大げさだが、当分はうちで使うが、そのうちモリブデンや王都にでも売っていきたい。
黒板とセットで。
俺は白墨だけをもって、屋敷に戻る。
屋敷では、すでに黒板の量産に入ってもらっている。
できたばかりの黒板をもって、俺の部屋に入り船長を部屋に呼んだ。
「すみません、お忙しいところお呼びして」
「いや、領主様。
船を動かさなければ俺たち船乗りなんざそれこそ暇なんだわ。
それで、学校だっけか。
船乗りの養成の件なのかな」
「はい、教えてもらう者たちは既にいるのですが、ある内容について相談したくお呼びしました」
「え。
俺が子供たちに教えていたようにではいけないのか」
「いえ、それで構いませんが、それだと船長はいつまでたってもここを離れるどころか商売で船を動かせなくなりますから」
そこから俺は、船長に説明してく。
俺の説明が下手なのか、まだ納得したような感じはしなかったが、俺が船長に教える内容を聞き始めて、それを黒板にメモしていくと、俺の意図を察したのか、積極的に俺と話が弾んできた。
当然、船の各部の名称は覚えてもらうようだが、初めはあまりに当たり前なのか、それすら教えようとはしていなかった。
よかったよ、俺が素人で。
船長が説明を始めると、それがどこのことかわからないので、その都度話の腰を折っていたのだが、俺も船長も気づいたようだ。
船長が今まで教えていた子供たちや、奴隷たちは数もそれほど多くもなかったが、以前から船に乗せて手伝わせていた関係で、ある程度の基礎は出来ていたようだ。
少なくとも船の各部の名称くらいは分かっていた。
俺は黒板に簡単な船の絵をかいて名称を記入していこうとしても絵が描けない。
たまたま船乗りの一人に絵の好きな者がいてそいつに絵をかいてもらうが、これまた使えそうにない。
どこぞの展覧会にチョーク絵を出展するんじゃないよって感じの絵をかき始めたので。
俺が今までの経験と言っても中学時代の技術の授業で習った図面の知恵をお借りしてその絵の上手な船乗りと一緒に絵をかき始める。
うん今日はこれ以上にできそうにないので、その船乗りをお借りしていったん解散してもらい、教育内容については明日以降となった。
しかし前途は暗い。
とにかく一つ一つ丁寧に進めていくしかないか
とにかく教育で使う挿絵作りだ。
件の船乗りに対してデフォルメや図面の概要を説明しながら絵を描いていく。
はじめは俺が下手な船の上から見た図を描いてそれを訂正してもらう。
そこにマストや錨、キャプスタンと言ったかいわゆる錨やもやいなどを巻き上げる人力の機械をそれこそ俺の描いたようなデフォルメされたものを書き込んでもらい、それに各部ハッチなどを加えていく。
船乗りが言うにはこれくらいあれば自分たちが使う用語でも困らないらしい。
ならばそのできた絵の下に今度は横から見た絵をかいてもらうと、今度は要領を覚えたのか簡単に描いてもらえた。
そこにマストやら、滑車やらを描いてもらいながら名前を記入していく。
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