第89話 仕入れ? 再びの王都へ
どうも、俺のしたことは珍しかったようで、かえって周りから目を引かれた。
俺からすると、工事中は周りに音やほこりが散らないように、周りを囲むのは常識になっているので、真似ただけなのだが、かえって、秘密工事でもしているのかと、注目されてしまった。
驚いたことに、町の治安を守る役人までもが、覗きに来たくらいだった。
俺は町の役人に工事中の安全のためと、フィットチーネさんが始める新たな娼館のために、できるだけ開店時の印象を良くするために工事の様子を隠していることを説明しておいた。
今までにない新たな娼館を作るという言葉に納得したのか、これ以上大事にはならなくてよかったが、工事中って、囲まないのか。
工事の方は、相談して決めた間取り通り順調に進んでいく。
問題があるとしたら、屋上に水をあげる作業についてだ。
これについては店の離れも同じ悩みを抱えている。
今は俺のアイテムボックスを使うことで、問題にすらなっていないが、俺以外が使う娼館なら絶対に解決しないといけない問題だ。
尤も、これについて俺にはアイデアがある。
これも異世界転生物の定番でもある手押しポンプだ。
これについて、前にガーナに相談したこともあるが、いくら青銅を扱えると言ってもここまで複雑な構造は難しいと言っている。
どこかに宛てがないかと聞いてみるが、ジンク村ではそれほど金属加工が盛んでないこともあって、なかなか難しそうだ。
それでは、奴隷ならどうか。
俺は、そう思い、フィットチーネさんに相談してみると、来週から始まる建国祭で、王都では大きな市が立つので、一緒にどうかと誘われた。
そこで、フィットチーネさんは新たな娼婦を仕入れるつもりだとか。それならばということで俺はフィットチーネさんに同行することにした。
本当にちょくちょく王都は見ていたが、今までとは全く違う雰囲気に王都全体が包まれている。
元々が国の首都であるために賑やかではあったが、やはり年に一度のお祭り、それも建国祭ともなれば国の威信が掛かるお祭りだけあって、雰囲気がより一層華やかだ。
フィットチーネさんに連れられてこられたのであるが、そこは社会人としての常識と云うか、やはり挨拶回りは大切だ。
初めはフィットチーネさんに連れられてドースン奴隷商で、ドースンさんにフィットチーネさんと一緒に挨拶をした後、直ぐに俺だけ分かれてバッカス酒店に出向く。
この間感じたことではあるが、ここバッカス酒店で店主と会っても商談なんか一度もしたことが無い……いや、最初にドースンさんに紹介された時にはしたが、それ以降は全くと言って商談は無いから、挨拶しても無意味ではとも思わないでもないが、それなりに取引をさせてもらっている関係では、挨拶しない訳にも行かず、挨拶しに出向く。
バッカスさんと建国祭について話をしながら、適当に挨拶を済ませていると、フィットチーネさんを連れてドースンさんがやってきた。
どうもこの三人は、今ではすっかり王都の大人遊びの仲間らしく、すぐに意気投合して、まだ日も高いというのに、出向くという。
その際に俺も誘われたが、俺は既に一緒に来ているマリーさんにしっかり釘を刺されている。
今度は私が来ているので、よろしくというのだ。
流石にフィットチーネさんはその辺りをよく理解しているが、他の二人にはそんな気配を一切見せていない。
はっきり言って、俺の扱いを知ればあの二人がどのように爆発するか予想ができないくらいは理解している。
それに、今度の移動にも、いつものメンバーであるナーシャやダーナも来ている。
あ、それと今回だけは忙しい中をガーナにも来てもらった。
まだ今度新たな仲間に加えるのがドワーフだとは決まっていないが、その可能性がある以上、変なわだかまりや、仕切り、もしくは相性と言ったもので揉めたくはない。
ドワーフ以外でも同じ問題は有るのだろうが、正直俺の知らない種族とあっては、できる限りの可能性は潰しておきたい。
まあ、ガーナとはキャッキャウフフはしていないが、あの宿なら別室もあることだし問題無いだろう。
この後は、まだ日も高いので、みんなと王都の散策をする約束がある。
なんでもマリーさんが色々と案内をしてくれると云うので、急ぎ宿に戻り、みんなと合流を果たす。
宿でみんなと合流後に、王都の街を散策する。
「年に一度の建国祭の時は、ここ王都が一段と華やかになるのよ」
「いつでも賑わいを見せている王都でも、確かに今日は違いますね」
「ええ、この国の外からも多くの商人が来るから、雰囲気が全く違ってくるわね」
マリーさんはそう言いながらギルド前の広場を過ぎていく。
ここがメインとなるのでは。
俺が疑問に感じていると、ガーナがマリーさんに申し訳そうにしながらも聞いている。
好奇心が抑えられない性格なのだろう。
まあ、職人って少なからずそういう部分を持っていると俺は思っている。
「マリー様。
ここがメイン会場では」
「マリー様は止してよ、ガーナ。
私はあなた方と一緒なのよ。
私は奴隷。
私はフィットチーネさんの奴隷なのだから、仲良くしてね」
「え。
それでは、大変申し訳ないのですが、マリーさんで」
「敬語もよしてほしいかな。
マリーと呼んでほしかったけど、あなたのご主人様も私のことをさん付けで呼ぶし、まあ、それで我慢しましょう。
で、ガーナの質問なのだけど。
ここがメインであることは間違いないけど、面白くないのよ。
ここに集まるのは王都でも有名どころの商店だけなの。
今回のお祭りだけに集まった各国の商人はあっちにいるから、そこからめぐりましょう。
どうせ、ここに出されているのも、お祭りが終わっても皆有名どころの商店なので、そこに行けば買えるしね」
マリーさんの情報はありがたい。
そんな大切な情報は王都に、それも上流にいなければなかなか分からない話だ。
所詮、庶民なんかは有名どころの商店なんかに縁なんか無いし、扱う商品など見たこともないから、広場で出店に並べられればそれだけで珍しくも感じるだろうが、この時期だけにしか見ることのできない、手に入れることのできない物は、あそこの広場に無いということだ。
流石、至宝とまで言われた人だけのことはある。
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