第90話 バザーで見つけた異国美人

 

 凄いと、尊敬のまなざしでマリーさんを見ていると、そのマリーさんはどんどん先に行く。

 それも、なんだか怪しい雰囲気が漂うようになってきている路地の中にまで入っていく。


 流石に心配になり、俺はマリーさんに聞いてみた。


「この先には何があるのですか」


「この先にも、ちょっとした繁華街があるわ。

 目的地は、その繁華街の先にある広場なのよ」


「繁華街?」

 マリーさんはこともなげに繁華街というが、確かに繁華街と言えなくもないような通りに出ている。

 先ほど通ってきた路地からすれば、道幅も広くなってきているし、その道の両脇にはびっしりと店が立ち並んでいる……

 昼間なので、暗くはないが、それに人通りも多く身の危険を感じるまでではない。

 でも、それは今が建国祭の期間中であるからであって、どうも街の雰囲気が昼から営業をするような店には見えない。

 今日は開いている店が多いが、それでも3軒に1軒の割で店が閉じられている。

 ここって絶対に夜の繁華街だよな。


「レイさん。

 ここって私が少女の時に勤めていた店があったんですよ」


 店って絶対にあれだよな。

 でも少女時代から?


「あ、レイさん。

 何を考えているのかな。

 うちの店だって禿が居るでしょ。

 私はここで禿をしていたところを身請けされて高級店で娼婦としてデビューしたのよ。

 ここはいわば私の故郷のようなものかしらね」


「だから詳しいのですね」


「ええ、見えてきたわよ。

 その先にある広場で……もう始まっている様ね、バザー」


 見えてきた広場は人でごった返しの状態だ。

 広場に所狭しと露店を開いているのは、それこそこの国ではあまり見ない衣装をまとった人ばかりにも見える。


 マリーさんが言うには、この時に集まる外国商人と言っていたことから多分その外国から来ているのだろう。

 なら、今まで見たことのないような物も見つけることもできそうだ。

 俺はワクワクしてきた。


 流石に人が多く、気を付けないとすぐにはぐれてしまいそうにはなりそうだ。


 ナーシャが俺の手を握ってきた。

 少し不安にでもなったのか、するとダーナまで反対側の手を握ってきた。


「あらあら、あなたたち、いいわね。

 私もそうすればよかった。

 後で代わってね」

 マリーさんまでも俺のことをからかって来る。

 まあいいか。

 デートのつもりでゆっくりと回ろう。


 何も無ければかなりの広さの有る広場だが、それこそ外国から集まった商人たちが露店を広げて、また、まだ早い時間だというのに人でもかなり出ており、窮屈な感じだ。


 それでも、マリーさんが云う通り、今まで見たことの無いようなものがあっちこっちの露店で売られている。


 一つ一つゆっくりと見て回りたかったんだが、どうもマリーさんにはお目当てがあるようだ。

 そのお目当てを探すように広場の中にどんどん入っていく。

 俺達もマリーさんに置いて行かれないように人手を割けながら進んでいく。


 広場の最奥に当たる一角に、奴隷商ばかりが集まっている場所があった。

 マリーさんは、どんどんその奴隷商の方に向かっていく。

 マリーさんのお目当ては、その奴隷商のようだ。

 幾人かいる奴隷商の内、目的の奴隷商の方へまっすぐに向かっていく。

 前々から知り合いのような奴隷商がいるようだ。

 マリーさんはその人を見つけ話しかけている。


「マリーさんじゃないですか。

 お久しぶりです」


「ケントさん。

 本当に久しぶりですね。

 昨年の建国祭は私の主人が亡くなったこともあり、これませんでしたからね」


「ああ、そうでしたね。

 昨年はお見掛けしませんでしたから、良い人にお身請けされたのかと思いましたよ。

 ひょっとして」


 件の奴隷商はそう言いながら俺の方を見る。

 確かに俺は奴隷を多数所有しており、今日も数人の奴隷を連れているけど、マリーさんを身請けできるほど大物ではない。

 彼女は王族だって身請けできなかった人なんだぞ。


「あら、いやですわ。

 レイさんは違うわよ。

 そうですね、お友達かしら。

 それとも恋人?」


「え、恋人にして頂けるのですか」

 俺は思わず聞いてしまった。


 流石に、奴隷商も今のやり取りで、関係をある程度理解したようで、さっさと仕事に移っていく。


 どうもマリーさんは建国祭の時には娼館のための奴隷の買い付けを以前より任されていたようだ。

 多分、毎年のように彼との取引があったのだろう。

 だからなのか、彼の方でもマリーさん用に取って置きとでもいうべき奴隷を用意して待っていた。


 この国ではエキゾチックと表現でもすればいいのか、黒髪にやや茶色がかった瞳の、そう日本美人そのもののような女性が二人奥のテントから連れてこられた。


 そもそも俺のような黒髪の方がこの国では珍しく、連れてこられた二人の美女は、この国ではエキゾチック美人の扱いなのだろう。


 正直、モリブデンでもここ王都でも今まで見たことがなかった。


「どうです、彼女たちは。

 美人でしょう」


「ええ、とても美しいですわね。

 こちらの条件はわかっているかと思うけど、彼女たちは大丈夫なの?」


「ええ、戦争捕虜だったのが、身代金を支払われずに奴隷落ちしたのですからこちらの命令には拒否権はありませんよ」


「それはいいけど、彼女自身が納得しているかどうかよ。

 わかっているでしょ。

 うちは高級店なの。

 できれば良いだけではないのよ」


「それもそうでしたね。

 でも、店を移ったとか」


「ええ、今はモリブデンにいるのよ。

 でも私が高級店以外には行かないわ。

 それに今では店を任されているしね」


「そうでしたか。

 それはおめでとうございます。

 先ほどの件ですが、問題は無いかと。

 一応私の方で彼女たちには確認しておりますが、直接聞いてみては」


「そうさせてもらうわ。

 で、彼女たちの名前は何と言うのかしら?」


 マリーさんは、奴隷商に彼女たちの経歴などを聞いていた。


 しかし、本当に美人っているものだ。

 この世界に移ってから、それほど時間はたっていないけど、モリブデンや王都に行き来している関係で、相当数の女性を見てきた。


 尤も俺がスケベなのでどうしても女性に目がいっただけなのだが、それでも彼女たちのような日本美人には見かけたことがない。


 多分だけど、昭和時代にヨーロッパにでも行ったような感じか。

 今でこそ、世界中よほど辺鄙なところでもない限り日本人を見かけるようだが、それこそ世界旅行が一般的でない昭和の時代なら、パリ郊外では日本人を見かけることがないようなものだと俺は理解した。

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