第117話 厄介事の対応

 

 結局、後程俺の店にドースンさんまでもが店に来てくれるらしい。


 俺がドースンさんのところから店に戻りカトリーヌにその話をしたら、奥に部屋を用意するとのことだ。


 しばらくして、バッカスさんがドースンさんを連れて店に来たので、奥に用意した部屋に連れていき、そこで初めてカトリーヌに話を聞くことにした。


 俺の他にバッカスさんとドースンさんが入ると、十分広いと思ったこの部屋も狭く感じる。


 ちょうど、元貴族屋敷でメイド長をしていたゼブラが俺たちの前にお茶を出してきたので、そのまま彼女も俺の隣に座らせて、カトリーヌから直接怪しげな客?について説明を求めた。


 彼女が言うには、その客は、初め何度か普通に店に通っていたようなのだが、店の中に女性しかいないことを確認したのか、すごんできたそうだ。


 最初から、無理難題を言ってきたらしい。

 いきなりカトリーヌに対して、『誰の許可を取って石鹸をここで売っているんだ』と言ってきたとか。

 ちょうど昼時だということもあって、すぐそばで食事をしていた商業ギルドの職員の方が間に入ってくれその場は事なきを得たという。

「この店は王都の商業ギルドに加盟しているぞ。

 許可ならギルド長から出ているが、君は誰かね。

 少なくとも商業ギルドの職員ではないな」

 彼がそう言うと、流石にまずいと思ったのか、その後は何も言わずに出て行ったそうだ。


 そこで、諦めればいいようなものの、今度はガラの悪そうな者を数名連れて、しかも昼時を避けて来店してきて、凄んできたそうだ。


 しかし、入り口傍にいたシルバーナの殺気を感じたのか、ガラの悪そうな連中の兄貴分だろうか、リーダーらしき人が慌ててみんなを連れて店から出て行った。


 そういう嫌がらせに近いことを何度か諦め悪くしていたところに、今度は貴族らしい身なりの人を連れてやってきて『この店の権利を全て寄こせ』とまで言ってきた。

 流石に、そんな無理は通るはずもなく、失礼のない範囲で拒否していると午後の客筋である貴族令嬢たちが来店してきて、その場は収まったとのこと。

 流石に貴族のご婦人や令嬢のいるところで、貴族の身分を持ち出しての脅しは外聞が悪いのか、すぐに話を辞めて出て行ったそうだ。


 いい加減諦めればいいのだろうが、相手はよほど俺たちの商いが気になるらしい。

 貴族の名前が出ての脅しで終わりかと思ったらついこの間のことらしいが、貴族の息子と名乗る者が『石鹸の販売権と仕入れ先の権利全てを寄こせ』と言ってきたとか。


 権利は買ってやるとまで言い始めたようだ。


 しかし、王都の店の客筋は上流階級であるので、そんな要求がすんなり通るはずもなく、ちょうど居合わせた男爵令嬢が間に入ってくれ事なきを得たそうだ。


 その令嬢にはお礼に一番安い石鹸を渡してあると言っていた。


 しかし面倒ごとには貴族が絡む。


 俺はバッカスさんやドースンさんに相談してみると。


 二人とも、それなら問題ないとばかりに余裕な表情を見せている。


 敵がわかった以上、こちらから攻撃をかけるから任せておけとバッカスさんが言ってくれた。


『その代わり、フィットチーネさんにあの件を頼んでくれないか』と言ってくるあたりが憎めないというか、このスケベおやじと言いたくなる。


 要は、新たに始めたモリブデンでの娼館で、至宝のお姉さん方にサービスを受けたいというのだ。


 今ではほとんど客を取っていないと聞いているお姉さん方に、お風呂でサービスを受けたいと言い始めたのだ。


「金なら言い値を出すから。

 金貨で100枚までなら即金だぞ」

 一晩で金貨100枚……まあ、お姉さんがたの相場ならば頷ける話だが、それでもあり得ないだろう。


 俺は、その場では「直接お姉さん方に聞いては見ますが、お約束までは出来ませんが、それで構いませんか」というのがやっとだ。


 二人とも、首を縦に大きく振って快諾してくれた。

 それでも貴族相手だと、すぐにどうこうできるはずもなく、二人と相談したうえで、しばらく全員でモリブデンに避難することにした。


 ちょうど、もうすぐモリブデンで開港祭が行われることもあり、また、新たな仲間を皆に紹介する必要もあったので、俺としては幸いだった。


 ドースンに馬車を借りて全員で移動することにした。

 王都の商業ギルドには、あの厄介な連中の嫌がらせがあるので、しばらく王都を離れるとだけ伝えてある。

 バッカスさんも王都を離れるのなら、少し嫌がらせでもしていけと言っていたことだし、二人に相談して、貴族の嫌がらせで当分王都で営業できないことにした。


 俺の店を楽しみにいたご令嬢たちにも、そのうち休業の情報は伝わるだろう。


 その原因がくだんの貴族だとわかれば俺から頼まなくとも勝手に動くだろうと二人とも言っていた。


「尤も、貴族の令嬢が動かなくとも俺たちは動くから安心しておけ」と言っていたから、モリブデンの開港祭が終わる頃には解決していそうだ。


 後のことを二人に頼んで俺はモリブデンに馬車で移動した。


 モリブデンに戻ると、町はすでにお祭り状態だった。

 いつも以上に人手が出ており、また、港に停泊する船の数も倍以上あるように思えた。


 とにかく人で込み合う大通りをどうにか抜けて店に入る。


 店にストックしてある酒もかなりきわどい状況になっている。

 店番をしていたユキの話では、いつも卸している娼館だけでなく、飛び込みで買いに来る人がひっきりなしだとか。

 俺が仕入れを済ませて戻ったのを非常に喜んでいた。

「お得意様に迷惑をかけずに済んだ」と言っていた。


 俺としても初めての経験で、どれほど酒が売れるのかわからなかったこともあるが、正直開港祭を舐めていたのも反省だ。


 少なくともお祭りなのだから、いつも以上に仕入れておくくらいはしておくべきだった。


 これなら俺だけでもトンボ帰りで王都に再度仕入れに行く必要も出るかもしれない。


 とりあえず、連れてきた奴隷の女性たちを中に入れて、全員を集めて紹介しておく。


 マイからはあきれたように『またすごい美人を連れてきましたね』だって。

 確かに美人、それもすこぶる美人が三人だ。

 もてない男たちから嫌味を言われるくらいならばわかるが、マイには言われたくはない。


 だって、手を出したわけでもなく、別に美人だから購入したのでもないのだし、マイのようにすぐに手を出した訳ではないのだから。

 俺は、マイの一言で偉く傷ついた。

 うん、豆腐のようなメンタルだ。

 ここで豆腐なんかといっても通じないが、関係ないか。

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