第116話 絶対違う人助け

 

 それでもここ王都では、彼女たち三人が加わったことでひとまず人手の方はどうにかなっているようだ。


 そうなるとどうしたものかな。

 厄介ごともあるようだし、一度店を休みにさせて、全員でモリブデンに戻ることも考えないといけないかもしれない。


 そのあたりの相談もかねて、ドースンさんやバッカスさんを訪ねて回った。


 二人に挨拶をしてから店に戻る。

 バッカスさんの店はそれこそ目と鼻の先にあるから、すぐにでも行ける。

 自分の店を出て、すぐに向かった。

 先にいつもの仕入れだけでも済まさないと、いつぞやのように有り金を全部使ってしまうことにでもなったら、仕入れができ無くなってしまう。

 今までのバッカスさんとの付き合いならばつけでも仕入れをさせてもらえそうだが、そこは駆け出しとはいえ商人の沽券こけんにかかわる。

 金が無いのでつけでの仕入れなんか俺自身が許さない。


 まあ、正直言うと、ここで甘えるとどんどん歯止めが利かなくなるのを恐れたためなのだが、先に仕入れておけば、その後はどうにかなる。

 今、石鹸の売り上げがすごいことになっているから、ちょっと待てばどうにかなりそうでもあるが、先のことなぞどうなるかわからないというのもあるし、何より俺の女たちにみっともないところを見せたくもないというのがあった。


「いらっしゃいませ、レイさん。

 すぐに旦那様をお呼びします」


 よかった、バッカスさんはまだ店にいたよ。

 いつも相手をしてくれる番頭さんがバッカスさんを呼びに行ってくれた。


「お~、レイさん。

 いつ王都に来たね」


「今来たばかりです。

 今日も先に仕入れをしておきたくて」


「相変わらず、まじめだね。

 仕入れなんかあそこの店にでも頼めば済むだろうに」


「いえ、王都の店は店。

 俺の仕入れはモリブデンの娼館に卸す分ですから、量も質も違います」


「量はともかく、質は確かに少しばかり違うか。

 あの店の方が高級品ばかりしか扱わないから、こっちの方が仕入れに苦労するときもあるくらいだしな。

 その分、美味しい酒とつまみが楽しめるともいうがね」


 え?

 王都の店の方が高級品なの。

 初めて知ったよ。


 そのあと仕入れをしながらバッカスさんと世間話をしていた。


「そういえば、最近変なのに目をつけられているらしいな」


「ええ、先ほどうちの者から聞きました。

 でも、まだ店長からは直接話を聞いておりませんから、よくわからないのです」


 バッカスさんが言うには石鹸の扱いをめぐりどこかの貴族辺りが地元のアウトローを使ってちょっかいをかけ始めたようだというのだ。


 さすがに、元騎士爵とその部下がいる店で暴れる訳にもいかず、また、貴族の名前を使って脅すことも、周りには貴族の奥方やご令嬢が興味津々で聞き耳を立てているところではできない。


 なので、たびたび訪れては何やら店長と話し込んでいるそうだ。


 あとで、詳細に聞いてから対応を考えるが、王都でも面倒ごとが出てきたようだ。


「そうなんですか……、バッカスさん。

 あとで店の方に来ていただいてもよろしいですか。

 少し相談したいことが」


「ああ、そうなると思っていたよ。

 レイさんもそろそろ貴族との付き合いを始めないとまずいかな」


「できれば貴族とは付き合いたくはなかったのですがね」

 全くの庶民が会社社長では無く貴族との付き合いなんか、罰ゲーム以外にないだろうと思うが、流石に派手に儲け始めた以上付き合わざるを得ないようだ。


 そんな会話をした後、バッカスさんと別れてドースンさんの店に向かった。


「ひと月ぶりですかね、レイさん」

 いきなり挨拶にならない挨拶をしてくるドースンさんだ。


「ええ、私も色々と忙しくしておりますから。

 それよりも捕虜奴隷の件ありがとうございました」


「ええ、そうでしょう。

 あんな好条件の奴隷はいませんからね。

 あれで、彼女たちが魔法でも使えてたら、きっと王宮から放出されていませんよ。

 陛下直々に奴隷として購入していたことでしょう」


「それほどの物なんですか?」


「ええ、何せあの器量でしょ。

 まあ、器量なんかあればいい程度しか王宮は見ていませんけど、あの攻撃力はすさまじいらしいですよ。

 なんでも近衛部隊で購入を検討していたとか。

 奴隷を兵力に入れたことが無いので、前例がどうとかで結局近衛での購入の話は流れたと聞いております。

 まず、護衛としたらあれ以上の奴隷はいませんね」


「そうですか。

 今私の店では器量と計算などの事務の能力を生かしてもらっておりますが、どうも変なのに目をつけられたようで、その意味では助けられているのでしょうね」


「変なの?」


 ドースンさんにも、先ほどバッカスさんの店で話した件をここでも話した。

 ついでにモリブデンでの人手についても相談してみた。


「どうせ、フィットチーネにも相談しているんでしょ。

 さすがにあれ以上の奴隷はそうそう出ませんよ。

 少し劣るくらいでもさすがに私にはもうしばらくは回ってきませんね。

 同業に話が漏れていますしね」


 ドースンさんの話では同業者の間で上玉を引き当てたと噂になっているようで、奴隷商間での公平性を保つ意味でも、今回王宮で抱えている捕虜奴隷は回ってこないとか。


 奴隷商の公平性ってかなり怪しい理由なのだが、それでも前回ジョーカー案件の貴族メイドの案件もあったので、王宮でも今回はその補填として見られているらしい。


 王宮でもさすがに問題案件を押し付けた認識もあったようで、それほどの上玉にも関わらず、すんなりと引き渡されたという。


 まあ、王都の奴隷商も色々と考えているようではあるらしい。


 なので当分王宮や同業などから回ってくる奴隷についてははずれが多くなりそうだと愚痴までこぼしていた。


 その分、なじみの女衒か、オークションで仕入れるからいいらしい。


 女衒がまだいる世界なんだと、俺は改めて驚いたが、案外必要な仕事らしい。

 命の価値がものすごく低いこの世界では、女衒は庶民にとって最後の安全保障の役割をしている。

 生活保護など無い世界では、最後は奴隷になるか犯罪者になるかの二択しかない。


 奴隷をたくさん抱えて、なおかつムフフしまくる俺が言うことではないけど、俺はこの世界の人助けに一役買っていると無理やりでも思いこませた。

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