第118話 港の賑わい

 

 モリブデンの店で全員の顔合わせは無事に終わった。

 俺のメンタルを除くとだが、そんなことはどうでのいいか。


 あとのことはモリブデンの店を任せているマイや王都の店の店主であるカトリーヌに任せて、ひとまず娼館に向かった。

 お姉さん方にお願いに上がるためだ。


「お久しぶりですね、レイさん」


 娼館に入るといきなりマリーさんに皮肉交じりの挨拶を受けた。

 確かにここに来るのは久しぶりになっている。

 酒の納品も今ではマイたちに任せきりだ。


「大変ご無沙汰しております。

 マリーさんはお元気そうですが、他の方にも変わりはありませんか」


「あら、挨拶も済んでいないうちから他の女の話をするのかしら」


 他の女って、彼女とのピロートークじゃあるまいし、正直勘弁してほしい。

 俺が顔を見せなかったもんだからいじられているんだな。


「すみませんでした。

 モリブデンでも、王都でも色々と厄介ごとに巻き込まれておりまして、お姉さん方に御迷惑をおかけしないように少し距離をあけておりました」


「あら、その言い方ですと、その厄介ごとの方は……」


「ええ、少なくともモリブデンの方は完全に片付きました。

 王都の方も、バッカスさんたちがどうにかしてくれるそうなんで、とりあえず王都を離れてきました」


「バッカスさんというと酒問屋のご主人の」


「ええ、それでそのバッカスさんからのお願いがありまして、お邪魔しました」


「ほんとに、も~。

 レイさんって仕事じゃないとここに来ないのかな?」


「え~、流石にここに遊びには来られませんよ。

 最近やっと稼ぎも出るようにはなりましたけど、ここの費用ってとてもじゃないけど……」


「レイさんならいつでもおまけするって言っているでしょ。

 まあいいわ。

 今日はこれくらいで許してあげる。

 それで、お願いって」


 俺は、バッカスさんからのお願いを包み隠さずマリーさんに相談してみた。

 さすがにここも人気になってきており、お姉さんでなくとも金貨100枚を取れる女性も出てきている。

 交渉の末、金貨200枚なら一回だけお相手してくれるという約束を取り付けた。

 王都での全盛期の時と同じ金額になってしまったが、今でも王都では支払ってでもという紳士は後を絶たないというから、たぶんそれでもバッカスさんは受けるだろう。


 その後、娼館の様子を聞いたら、本当に風呂のサービスがバカ当たりして、拡張を検討しているとか。


 幸いなことにモリブデンは開港祭がもうすぐ始まる。

 海外から船を使って多くの商人たちがもうすでにモリブデン入りしているので、娼婦の追加用としての奴隷の購入もできそうだといっていた。

 もっとそのおかげでモリブデンはどこもかしこも死ぬほど忙しくなっているのだが、忙しいのは商売人としては歓迎されることなので、かまわないか。


 それに、ここの娼館は既に増員用の奴隷をフィットチーネさんに依頼もしてあるという。


 ここの風呂のサービスを行っている別館のハード面でも新築したばかりなのだが、増築も考えているようだが、それ以上に娼婦たちのスケジュールに余裕が無くなってきているのが問題だと言っていた。


「今のままでも、女の子が足りなくなっているのよね」

 よくよく話を聞くと、ここの娼館に宿泊せずに、することをしたら引き上げる客も相当数出ているので、ここに所属する女の子たちも二組以上の客を取ることもあるのだとか。


 さすがに毎日となると無理が出ているからお姉さん方は女の子たちにはさせていないけど、客からの要望が日に日に強くなっているらしい。

 外からこの時期にだけ娼館に遊びに来る客だけでなく、常連さんからもなかなか思うように遊べないといった感じでクレームも出始めているとか。


 そうでなくとも祭りの関係で国内だけでなく国外からも人がモリブデンに来ている。

 しかも、国外からきている人は金を持った者が多くおり、しかも男ばかりだから特にモリブデンの娼館は稼ぎ時だそうだ。

 うちでは予約だけでもすぐに埋まるので、祭りの特需は正直ありがたいものでは無いそうなのだが、この特需がないと立ちいかない店も多数あるらしく、どこの娼館も、いや、娼館に限らずどこの店もこの時期は鬼気迫るものがある。


 そういえばうちも酒の販売が伸びていたな。


 マリーさんのお話では、ここも本店の娼館も高級店なので遊びに来る客も限られているから大した問題にはなっていないけど、それでも常連さんからは予約が取れないとクレームが入ることもあるらしい。

 当然、予約を入れることのできなかった国外からのお客様からはひっきりなしの問い合わせが文句と一緒に入っている。

 これが場末の娼館ならばどこも無理してでも客を受け入れるので、修羅場になっているらしい。


「でも、毎年のことだから、どこも慣れてはいるでしょうけど、今年初めて祭りを迎える女の子たちには堪えるでしょうね」


 世の中というよりも、モリブデンはそんなことになっているのか。

 まあ、祭り限定での話なのだろうが、それでもすごい。

 この時期のモリブデンはお金が、この時期にものすごく動くものだから、目端の利く者ならば一儲けも夢ではないだろう。

 実際、モリブデンに店を構える多くの商人は、祭りで大儲けをして成功の足掛かりをつかんだ者が多いらしい。

 俺は違うけど、なので、モリブデンの町の様子がそれこそ飢えたオオカミが多数いるような感じで、若い商人や屋台で商売をしている商人たちのギラツキがすごい。


 まあ、うちは儲けよりも人手の方が問題だが、それも後でフィットチーネさんの所に寄って相談しよう。

 娼館での話も終わり、俺はその足でフィットチーネさんの所に向かった。


 俺がフィットチーネさんの店の前についた時にはちょうどフィットチーネさんが店から馬車でどこかに出かけようとしているところだった。


「あ、フィットチーネさん。

 お出かけですか」


「レイさん。

 ちょうどよかった。

 レイさんから頼まれてもいる奴隷の仕入れに港まで向かうのですが、よろしければご一緒しませんか」


「え、良いのですか」

「ええ、ついでですし、二度手間になるのならその場でレイさんの奴隷の確保もしてしまおうかと」


 フィットチーネさんは祭りでモリブデンに来ている外国の商人から奴隷を購入しに行くところだった。

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