第119話 港の活気

 

 前に追加での奴隷の購入について相談していたことをフィットチーネさんは覚えていたため、俺を港まで誘ってくれた。

 俺としても、正直開港祭について全くわからないからありがたくフィットチーネさんの誘いに乗って港まで馬車でご一緒させてもらった。


 港には多くの船が停泊しており、また、沖合にも大型の船が多数停泊していた。


「ものすごく活気がありますね、この港町は」

 俺は港の様子を見て思わずこぼしていた。

 魔法使いになるまで日本で生きてきた俺は当然大きな港の横浜や、神戸などに行ったことがある。

 両方の港とも人は多く出ているが、それはあくまで繁華街という側面だけの話だ。


 大井埠頭にある港などの貨物しか扱わない港にはトラックは多くあったが、人などほとんど見ない。

 それだけに港に、しかも船の周りに人が大勢いるモリブデンの港の様子が新鮮に映った。


 船の周りに人が多く出ており、荷運びなどをしている光景が面白かった。


「ええ、モリブデンはこの国に一番の港町ですから活気はありますが、ここまで船があるのは珍しいですね。

 祭りならではの光景でしょう」


「祭りで賑わうのは分かりますが、普段は違うのですか」


「ええ、祭り時期を外しますと半分くらいでしょうか。

 それに閑散期になりますとほとんどいないこともありますよ」


「そんなに違いますか。

 そう言えば私はこの町に来てから港をじっくり見たのは初めてかもしれませんね。

 驚きました」


 そんな会話をしながらフィットチーネさんは大きな船のそばまで来ていた。


「この船は私が毎年お取引をさせていただいている方が使う船です。

 中に入りましょう」


 フィットチーネさんは俺のそう云うと船のそばにいた船員を捕まえて中に入れてもらった。


 船の中には独特の香りが……はっきり言って臭かったがフィットチーネさんたちは気にしていない。

 多分この臭いがこの世界のスタンダードなのだろう。

 まあ、臭いはすぐに慣れるというから……しかし、なかなか慣れないな。

 俺にはちょっときついかも。


 奥の船室で、船の船長と、商人が俺たちのことを待っていた、あ、待っていたのはフィットチーネさんのことか。


 挨拶もそこそこにすぐに商談が始まり、数人の奴隷が連れてこられた。


 奴隷たちは慣れない船旅にためか、少し疲れている表情は見せているが、前にオークション会場で見た奴隷ほどには酷くは見えない。


 遠距離無理やり歩かされた者と、船に乗っていただけの違いかもしれないが、こっちの方が俺が見ても状態は良さそうだ。


 フィットチーネさんは、納得したのかその場で契約をしている。

 横から覗いたら契約書には金貨で4桁の数字がある。

 あの奴隷って、そんなにするのかって驚いていたら、船で連れてきた奴隷を丸ごと買うらしく、まとめての値段だそうだ。


 中には外れもあるだろうが、俺も見たことのある経歴書で奴隷の素性は確認してあるので容姿は別に能力的には納得しているようだ。


 船に横付けされた馬車にどんどん奴隷たちが船から降ろされてどんどん馬車に乗せられていく。


「レイさん。

 私の方はこれで済みましたが、レイさんの分がまだですので、もう少しお付き合いください」


「え、すみませんね。

 なんだかお手間ばかりをおかけしているようで」


「いえいえ、毎年のことなんですよ。

 彼とは信用がありますのでお任せですべて引き取ることにしておりますが、船はまだまだたくさん来ておりますから、毎年他の船も見て回ります。

 掘り出し物があるかもしれませんしね」


 その後は船から降りて、隣の船に向かう。

 こちらも顔見知りのようで、簡単な挨拶で中に入っていく。

 中の船室で、先ほどの時のように奴隷商人と話をしながら数人の奴隷を見せてもらうが、今回はお気に入りはなさそうだ。

 俺のとしても条件に全く合わない奴隷ばかりなので、この船は今年は外れのようだ。


 数隻の船を回ったが、なかなか掘り出し物というのは見つからないようだ。


「こんなところでしょうか。

 レイさん、せっかくお付き合いいただいたのにレイさんの条件に合う奴隷が見つからずすみませんでした」

 俺はフィットチーネさんから詫びを入れられた。


「いえ、お気になさらずに。

 もともと掘り出し物ってギャンブルよりも当たらないものでしょう。

 気にしておりません。

 それよりフィットチーネさんが気にかけていただければ御の字です。

 見つかった時で結構なのでお声掛けください」


 そういって、俺たちは港から離れようとしていた時に、フィットチーネさんは顔見知りの国外から来ている奴隷商から声をかけられた。


 挨拶だけのようだったが、その奴隷商は数人の奴隷を連れている。

 聞くと移動中に生き腐れの病にかかった奴隷の処分先を探していたようだった。

 さすがに瑕疵のある奴隷を売るわけにもいかずに、かといって、毎年取引をしていた奴隷商も見当たらずに困っていたとか。


 よくよく話を聞くと、毎年取引をしていた奴隷商って俺にちょっかいをかけてきた連中の一味で、この町から追い出された商人の一人のようだ。


 奴隷は三人で皆若い女性ばかり。

 かなり痩せているので、栄養状態が相当に悪く長い船旅に耐えられなかったようだ。


 どれ、生き腐れってどんな病気なのか、俺は好奇心を抑えられずに鑑定先生に聞いてみた。


 『脚気、症状が進み自覚症状が出ているがビタミンの摂取で治療が可能』って出ている。

 なんだ、治るんだ。

 では、その奴隷たちって……エルフ??エルフがいるよ。 

 かなり汚れてはいるがエルフに人間の女性が二人。

 みな同じ症状のようだ。

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