第2話 鑑定スキルって

 俺は方針を変えて、生き残ることに集中することにした。

 俺は決断するとすぐに行動に移した。

 とりあえず周りの様子を今度は丹念に観察していく。


 遠くの方から小川のせせらぎが聞こえて来る。

 まずは水の確保だ。

 俺は小川の方に向かって歩き始めた。

 だが、警戒だけは欠かしてはいけない。

 ここがどんな世界は全く分からないのだ。

 物語の定番だと、危険な森の中っていうのも沢山あった。

 今の俺にとって、角ウサギやスライムなどというような雑魚キャラでも命取りになりかねない。

 とにかく耳を済ませながら、身を隠せそうな木を見つけてはそちらの方向に移動すると言った、ドラマで見せる特殊部隊の様な事をしながらの移動だ。


 ~~~~

 本人の中ではドラマのようにかっこよく決まっていると思っているが、はたから見たらコソ泥がこそこそと身を隠しながらの移動に見え、まるでコメディーだ。

 それこそ本当にこそこそしながらの移動で、わずかの距離だったが、それなりに時間が取られた。

 ~~~~


 小川のほとりに着いても警戒は解けない。

 まずは付近の観察をして、危険が無いのを確認してから小川を覗き込む。

 きれいな水だ。

 俺は小川から水を手ですくってみた。

 そのままでも飲めそうなのだが、寄生虫って奴、あれが怖くてなかなか飲めない。


 そうだ、こういう場合には沸かして飲めばいいんだ。

 そこで俺はハタと困った。

 水を沸かそうにも何もない。

 俺は先ほどまで事務所で、仕事をしていたままだ。

 キャンプセットなどある筈がないが、小川の綺麗な水を見たら無性に喉が渇いてきた。


 どうしよう………


 今目の前にある水が安全だと分かればすぐにでも飲むのだが。


 そう思って、しげしげと水を見た。


 『水、飲用可。

 僅かばかりの回復の効果あり』


 俺の頭の中でこんな声を聴いたような気がする。

 どうも飲めそうだ。

 俺は手の中にある水をそのまま啜った。


 おいしい。


 たかが水の筈だが、それはとてもおいしく感じた。


 でも、さっき聞こえた声は何だ。

 本当に声が聞こえたのかは怪しいが俺には確かに聞こえたように思えたのだ。

 錯覚の様でもあり、違うようでもある。


 だが俺は、あの声?のおかげで水を飲む勇気を貰ったのだ。

 疑問には思ったがすぐに忘れて、サバイバルを考え始めた。


 水は手に入った。

 『三日、三時間、三分』の教えというのがある。

 俺は急にどこかの豆知識を思い出した。

 どこにあったのか、ああそうだ。

 昨夜の夜食用に買ってあったスナック菓子の後ろに書いてあった雑学だ。

 なんでも人は空気がなくなると3分しか持たないのだとか。

 逆に空気が無くとも3分以内であれば助かるという奴らしい。

 その流れで、体温、主に低体温だそうだが、3時間でダメになり、水が無くとも3日は持つと言うそうだ。

 昨日見た話だから流石にまだ覚えているが、直ぐにこんな場面に出くわすとは思ってもみなかったから、あまり詳しくは読んでいない。

 サバイバルについて有用なことが他にも書いてあったような。


 無いものを強請ねだってもしょうがないのだが、とりあえず、水を、飲料水をいつでも入手できる環境はできた訳だ。


 これで3日以上は生きていける。

 これにあと食料を手に入れれば、辛うじて当分生きていけそうだ。

 そのことを理解したら急に安心できたので、今まで緊張していたことがだいぶ楽になってきた。

 後は食料か。

 俺は周りを見渡した。

 幸いジャングルとまではいかないが、森の中にいる。

 虫などには気を付けないといけない環境だが、逆に言うと大型動物からの脅威は少ないともいえる。

 それに虫は重要なたんぱく源になるとも聞いたことがある。

 尤も虫など食べたくもないが。

 こんな環境なら、縄文人よろしく採集生活はできないだろうか。

 木の実などが有れば本当に生きていける。

 確かどんぐりだって灰汁あく取りさえできれば主食にすらなりうると前に遺跡を見学に行った時に書いてあったのを思い出した。


 俺は主に果実のなっていそうな木々のあたりを探していった。

 運が良いのか、ご都合主義なのかはこの際置いておいて、直ぐにおいしそうな果実を見つけた。

 見た目には形の悪いリンゴのようだ。

 でも、見たことも無い果実。

 キノコほどではないが果実にだって毒性のある物はあると聞いたことがある。

 勘違いかもしれないが、それでもここでは必要以上に注意したって、し過ぎとなる筈がない。

 なにせ、俺の命はウルトラマンと違って一つしかないのだ。

 それに、一般的な話だが、果実は人や動物に食べてもらってなんぼの進化を遂げている筈なので、ほとんどが食べられる筈なのだが、ここが地球でないことも考えると一抹の不安がある。


 すると先ほどよりも簡単にあの声が聞こえて来た。


 『アポーの実、リンゴの原種のようなもの。

 食用可、甘酸っぱくおいしい』と聞こえて来た。


 どうやら、こうなると幻覚の類では無く、ファンタジー世界での定番『鑑定』スキルのようなものか。

 どうも俺でも使えるらしい。

 実際、食べてみないと幻覚かどうかの判別は付かないが、これで、もし不味かったり、毒でもあったりしたら俺は立ち直れそうにない。

 ショックと諦めで、ここで死んでしまうだろう。

 絶対に立ち上がれなくなる自信がある。

 ここは『鑑定』スキル(仮称)を信じでそのまま丸かじり。


 ガブリ。

 ムシャムシャ。


 いわゆる高級フルーツショップで売られているような贈答用のようなあの素晴らしくおいしいリンゴの味では無いが、まさしくリンゴの味だ。


 だが、おいしいかというと微妙だ。

 はっきり言って不味くはないが、これがもしスーパーで買った物だったら、正直がっかりしたところだ。

 今回のリンゴは外れかなって感じの味だ。

 このリンゴがおいしいと表現されるようならこの世界の料理には期待が持てそうにない。


 ………


 いや、料理移転ジャンル物のように俺がこの世界で料理革命を起こせばそれこそ素晴らしい世界が広がるのでは……


 妄想はこれくらいで良いか。


 しかし、これでとりあえずは生きていけることは分かった。

 しかも、どうやら俺にもスキル、魔法、女神の加護、どうやらそんな類のものがあるようだ。

 まだ使いかたはよくわからないから、検討は必要だけども、これは使わない訳にはいかない。

 ラノベファンタジー世界における『鑑定』のようなものだとしたら、それだけでもかなり使える。

 まず商人になっても失敗が無い筈だ。

 となると俺の目指す方向としてはこの世界で一番の商人を目指せばいいのか。

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