第3話 今度はアイテムボックス

 とりあえず商人を目指すとして、この他に欲しいのはやはりあれだよな、あれ。

定番の『アイテムボックス』のようなスキルだろう。

 俺の読んだファンタジー物では『アイテムバック』とかいう魔法具でも代用が効くから、今無くても買うことでどうにかなるが、あれば申し分無い。


 しかし、いくら唱えても使えないとなると、いや、『鑑定』も唱えてなかったな。


 落ち着いて考えろ。


 心の中で、強く望んだ時に声のようなものが聞こえて来た。

 となるとこれは、俺自身が心の中で心底望まないと使えない。

 逆に言うと、強く望めば使える。

 例えばこのリンゴ。 

 一つ二つは持つことができるが移動するとなると運ぶのに困る。

 そう、今強く保管を考えないといけない。

 あの伝説の青いネコ型ロボットが持つと言う神具。

 あれを想像して考えて強く望むと。

 ほらできない……やっぱり。

 しかし、そうなるとどうするかな。

 こういう場合に、こんな感じでぱっと消えないといけないよな……て、消えた。


 どこに行った?


 て、頭の中で『リンゴが一つ』。


 このリンゴをって……ほら出て来たヨ。

 しかし、リンゴってなんだ、確かこいつはアポーの実とか言っていなかったっけ。

 俺自身がリンゴと認識しているからリンゴになったとか。

 でも、まあ良いか。

 待望のスキルが使えた。

 『鑑定』に続き『アイテムボックス』が俺でも使えた。

 俺も正真正銘の魔法使いと言っても良いよな。

 となると、次にやらないといけないのは、このスキルの習熟か。

 好きに使えないといざって時に困るし、何より『鑑定』はいいが、『アイテムボックス』については容量も問題になる。

 どれくらい保管できるか。

 また、保管品の状態はどうなのかを理解しないとまずい。

 まあ、この辺りについてはとにかく習うより慣れろだ。

 色々とやってみよう。 

 それから俺は食料確保の意味もあるので、リンゴを見つけては全部収納していった。

 後は、収納先でリンゴがどうなるかの検証だ。

 昔の帆船時代での話ではないが樽詰めしたリンゴが腐るのは聞いたことがあるが、果たしてどうなるかは時間がかかるが検証しないとまずい。

 かなりの量のリンゴを取っては収納していったが、収納先がいっぱいになる気配がない。

 とりあえずは食料品の行商をしても成功できるレベルにはあるようだ。

 しかし、ここまでくると、どこまで入るか確かめたくなるのは人情だ。

 リンゴばかりを探していっては手間ばかりがかかるので、手ごろなところから倒木を見つけては収納していく。

 小枝から大木まで、とにかく朽ちるのを待つ倒木を片っ端から収納していくも、いっこうに収納先がいっぱいになる気配がない。

 自分を中心にして当たりの倒木が片付くと、今までジャングルのように歩きにくかった森の中が、森林公園のように快適な空間に変わっていく。

 自然の森も良いが、俺のような都会人には人工的に手の入った自然風な林が一番合う。

 こういったなんちゃって自然の中が一番快適に感じるのは都会人の性だろうと勝手に思いながらも、どんどん倒木を片付けて行く。

 もうこうなると当初の目的を忘れて、付近の片づけに面白みを感じながらの作業を惰性でしていた。

 目的が快適性に代わったこともあり、倒木ばかりでなく歩きにくいブッシュもどんどん取り込んでいくと、土の地面が見えて来た。


 しまった。


 芝生のように短めの草が生えている方が快適なのに、湿った土の地面では直に座ることもできない。

 となるとだ。

 できるかどうかわからないが試さない手は無い。

 ということで、薬草に類するものばかりだけを取り込むことができるかを試してみる。

 幸いなことに、今まで取り込んだ草は、収納先できれいに分類されており、使い道の限られるただの草の他に、薬草や毒消しに有効な草も見つかる。

 中には毒その物にも使える草も多数あったが、これも何かに使えるだろうと、少しでも価値の高い物ばかりを選んで取り込んでみた。

 結果、取り込みはできる。

 地面に生えている草もいい塩梅に少なくなるので、歩き易さも格段に良くなる。

 そんなことをしながら付近をやみくもに歩いて行った。

 日も沈み、これ以上森の中を歩くのは危険と判断したので、今日はこのままこの辺りでお休みすることにした。

 そのまま地面に寝転んだが、服が湿ってきたので、慌てて飛び起きて、その場で横になるのは諦めた。

 そういえば、こういう夜営では焚火を前にして、交代で番をしないと襲われる何てあったな。

 しかし一人では無理だ。

 とりあえず俺でも登れそうな木を見つけたので、その木に登り今日はそこで休むことした。


 もうヤダ。


 日が昇り始め辺りが明るくなってきたときに俺も活動を始めた。

 結論から言うと、まともに昨夜は寝ることができなかった。

 木の上にいることから寝ぼけて木から落ちるのを恐れたのもあるが、とにかく虫が多かった。

 虫が俺の周りをとにかく飛び回り、寝れたもんじゃない。

 焚火の周りで眠るのはそういう虫除けの意味もあるのだろうと勝手に思ってすらいる。


 『ああ、人里を目指そう』 


 俺はとにかく人としての生活がしたくなり、第一目標を人里を目指すことに決めた。

 そういえば、ここに流れ着いた直後は、そのはずだったのだが、途中から色々と俺のスキルチェックに代わり、いろんなものを取り込んでいただけだった。

 俺はあの小川のほとりまで戻って、顔を洗い、その小川を下流に向かって歩きだした。

 途中では目につくものを昨日と同様に収納していく。

 小川伝と云うこともあって、倒木よりもきれいな石から始まり、手ごろな大きさの石、しまいには抱えても持ち上げることなどできそうにない位の大石までも収納したが、相変わらず一向に収納限度が見えてこない。

 途中喉も乾いたこともあり、小川を流れる川の水までも取り込んでみた。

 どこまで取り込んでも一向に変わらなかったことで、俺はこれ以上の調査を辞めた。

 しかし、相当な量の川の水を取り込むことに成功したことから、下手をすると一生分の水については心配いらないのではとすら思った。


 暫く小川沿いを歩くと、徐々にだが川幅も広がっていき、しまいには飛び降りるには勇気のいる、いや無理だろうと思われる滝に出くわした。

 流石にこれ以上は無理と判断して、滝から離れて、下に通じる場所を探しながらまた森の中に入って行った。


 暫く森の中をさまようと、少しばかり開けたところに出くわした。


 あれ、わだちがある。

 と云ことは文明社会に戻ってこれたということだ。

 轍の幅からは、明らかに自動車のタイヤ痕ではない。

 そう、これもファンタジー定番の中世世界の馬車のものと思われるものだ。

 中世世界……文明社会に慣れたというよりもそれ以外知らない俺にとって少しばかり心配はあるが、ファンタジー的にはもってこいの環境とも思われる。

 ここは俺の魔法がいまいち当てにならないこともあるし、知識チートで商人コースの無双を目指すか。

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