第6話 後片付け

『盗賊、カーポネ団の首領 カーポネ。

 王都近郊で散々悪事を働き、騎士団が投入される寸前でここまで逃げて来た。

 懸賞金付き』

 おい、これはちょっとやばかったんでない。

 こいつかなりの悪党だ。

 こんなのがそこらにいたら安心などしてられない。

 他に仲間でもいたら大変だ。

 そう思いながら周りの森を見渡した。


 森はあまり遠くが見えないくらいに暗くなってきている。

 ここに着いた時には既に夕方だったので、夜になっても不思議はないが、それにしても改めて暗くなり始めた森を見ると少々怖くもある。

 それにあの方向の先に何かがありそうで、ちょっと怖い。

 別に危険は感じていないが、何か気になって仕方がないが、夜に一人で森の中を歩くような無謀な性格でもないので、俺は大人しくしていた。

 馬車の方では夜営の準備を始めるようだ。

 馬車の中から、これは妖艶とも清楚ともナントも言えないようなすこぶる美人が、三人も出てきて火をおこしていた。


 俺は美女の手伝いにでも行こうかと歩き始めた時にセブンさんに呼び止められた。


 「レイさん。

 申し訳ないが、レイさんの出した木や石をどけることはできますか」


 そうだ、制圧した盗賊の処理を暁の皆さんが怪我を押してしているのだ。

 流石に重傷を負った二人はあの美女の傍で横になっているが、軽症の二人とイレブンさんが木をどけるなどして下敷きになっている盗賊たちを処理している。

 人の力でどけられそうな物ならいいが、俺の出したものの中には一人二人では絶対に動かせないような大きな物まである。

 しかし、流石にここで俺がアイテムボックス持ちだとバレるのもまずいと、警戒する必要がある。

 暫く考えて、一つのアイデアが浮かんだ。


 「ええ、動かすだけなら直ぐにでもできますよ。

 どれからしますか」


 「それは助かります。

 では手前のあの大きな石からお願いできますか」


 そう言われたので、俺は指示された石に向かって歩きだして、邪魔にならない場所に目星めぼしを付け、一旦石を収納してからすぐに、予め目星を付けた場所に石を出した。

 傍で見ている人も、これなら魔法で石を動かしたようにしか見えないだろう。

 確かにスキルか魔法かは分からないが、アイテムボックスで動かしたことになるのだ。

 そんな様子を間近で見ていたセブンさんが感心したように声を出していた。


 「そんな魔法があるのですね。

 これはどんな魔法を使ったのですか」


 「え、いや……

 自己流と云うか、俺はあまり詳しく無くて……」


 「あ、いや、これは失礼しました。

 そうですよね。

 初対面の冒険者に手のうちなんか早々に明かしませんよね。

 同じパーティー内でも明かさない人もいるのに、失礼しました」


 やはり、物語でよくあるように、手の内はあまり晒さないのが常識のようだ。

 俺は石に続き、セブンさんの言われるままに、邪魔なものをどけて行った。

 あらから片付いて、馬車まで戻った時には、辺りはどっぷり暮れていた。

 夜営先では食事の用意もされており、俺の分までご馳走してくれた。

 しかも、俺に食事を持ってきたのが、あの美人のうちの一人だ。

 とにかくグラマーな体系で、小顔の美人。

 この世界にもこんな美人が居るのだと、正直この世界に希望が持てた瞬間だ。

 セブンさんも美人ではあるが、イレブンさんの奥さんだと言う。

 人妻を寝取る趣味が無いので、セブンさんは範囲外にある。

 焚火を囲み、イレブンさんやフィットチーネさんと雑談しながらのお食事だ。

 その時に、盗賊の処理について色々と教わった。

 とにかく、盗賊は殺しても生け捕りにしても報奨金は領主から出されるそうだ。

 この辺りは俺の知っている物語と同じだ。

 それならと俺はいくつか質問をしてみた。


 「盗賊たちがため込んだお宝なんかを発見した場合にはどうなりますか」


 「ああ、それは発見者の物だ。

 尤も持ち主がはっきりしていた場合には返却するのが普通だが、その場合にはその価値と同等以上のお礼がなされる筈だ。

 まあ、返す返さないは発見者の判断次第だが」


 「レイさん。

 盗賊の持ち物の中に奴隷なども多くいるそうですよ。

 もし、そんな奴隷を見つけたらぜひ私にお声がけください。

 助けて頂いたレイさんのために最大限の便宜を図ります」


 奴隷も物になるんだ。

 これには物語の定番だとは言え、少なからずショックを受けた。

 それから、フィットチーネさんから王都のことも色々と聞いてみた。

 この世界には、いくつかの国があり、どうも頻繁に戦争をしているようで、傭兵なども沢山いる様なのだ。

 今回襲ってきた盗賊もその傭兵崩れの様で、集団での戦い方に非常に慣れていたために、かなり苦しいことになっていたとイレブンさんは教えてくれた。

 彼らは冒険者という職業になるのだが、必要に応じては戦場にも出向くそうだが、傭兵と呼ばれる人たちは戦場だけが仕事場だという。

 そんな彼らも、雇い主が戦争で負けようものならかなり厳しい立場になることもあり、そんなときに逃げ出したのが盗賊の類になるのだとか。

 どこも治安が悪くなるような話ばかりだ。

 要はこの世界、どこもかしこも危険がいっぱいだということか。

 それが分っただけでも今回は非常にためになる。


 その日はそのまま焚火を囲んで夜営となった。

 俺は警戒の番からは免除されて、焚火の傍で寝ることになった。


 すると、馬車の中で寝ているはずの美女の一人が俺の隣に来て、そっとささやいた。


 「今日はお助け頂きありがとうございました。

 こんな所では十分なお礼ができませんがモリブデンに着いたら、覚悟していてくださいね。

 たっぷりとお礼させて頂きますから」


 言葉の端にはかなり物騒なワードが混じっているが、俺にお礼をしてくれるらしい。

 俺もいよいよモテ期到来か。

 そんなうれしい予感を感じながら久しぶりにゆっくりと寝ることができた。

 地べたに直に寝るだけなのだが、それでも久ぶりに快眠を取れたって、俺って今までどんな生活をしてきたんだと、正直この時ばかりは少し悲しくはなった。

 昨晩は寝れなかったと言っても一晩では久しぶりとは言わない。

 会社では事務所の椅子に座ったまま意識をなくすような生活をどれほど続けて来たんだ。

 そんな生活をすれば過労死しても不思議は無いかな。


 翌日、日の出とともに活動を開始した。

 辺りを片付けてすぐに出発した。

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