第7話 町に到着

 俺はフィットチーネさんのおかげで、ここからは馬車の中で、美女に囲まれての移動となった。

 フィットチーネさんは御者と一緒に外にいるので、馬車の中は本当にハーレム状態だ。

 俺の人生の中で、これほど幸せな時間があっただろうか。

 美人とは傍にいるだけで人を、特に男を幸せにしてくれる。

 しかも、その三人の美人は俺に好意的に色々と話してくれるので、俺は高級クラブで、ホステスさんに接待されているような本当に幸せを感じながらあっという間に時間が過ぎて行った。

 人助けって、できるのならするものだと、この時ばかりは心の奥底から思った。

 半日もすると目の前に大きな城壁で囲まれた街が見えて来た。


「レイさん、着きました。

 あれが港湾都市モリブデンです。

 王都に続きこの国で2番目に大きな町です。

 商業の発展だけを考えるのなら王都以上かもしれませんよ。

 ここに拠点を置くのなら私が協力します」


「ありがとうございます。

 私もできたらそうしたいのですが、あいにく持ち合わせが全くないと言うか、本当に今代から恨まれていたために、身一つで追い出されましたから、その……持ち合わせが……」


「ああ、そうでしたね。

 そんなことをおっしゃっていましたね。

 そこは私にお任せください。

 今回の盗賊の件でかなりの実入りはあるはずです。

 ですが直ぐにとはいきませんから、そうですね。

 私が少し融通しましょう」


「何もかもすみません。

 情けない話ですが、よろしくお願いします」


「な~に言っているのですか。

 私たちを救ってくれたレイさんにお礼をしないでは、受けた恩を返せないようでしたら商人としては失格になってしまいます。

 暫く町に慣れるまで、私にレイさんのことをお世話させてください」


「本当に、すみませんが、よろしくお願いします」


 本当に情けない話だが、俺は現在一文無しだ。

 正確にいうと俺の財布には1万数千円の現金が入っているが、この世界では意味をなさない。

 それ以外での持ち物としては意味ある物はほとんど持っていない。

 ということでこの世界では一文無しだ。

 身分も怪しいままなので、本来ならばこんな大都市には入り口で門前払いされるところをこの町の有力者であるフィットチーネさんのおかげで問題なく通された。


 だが、まだ問題は続く。

 身分が無いのだ。

 なので、官憲に捕まり身分を問われればそのまま別室へのご招待が待っている。

 だが、そのあたりもフィットチーネさんはきちんと考えてくれていた。


 俺たちを乗せた馬車は町の繁華街の中を進み、大きな建物の前で止まった。


「ここで暁さん達の仕事は終わりますから」


 そうフィットチーネさんから説明を受けた。


「暁の皆さん。

 今回も色々ありましたが無事に到着できました。

 感謝します」


「いえ、今回は危険な目に遭わせてしまい、申し訳ありませんでした。

 もし、次回があればまたご指名ください」


「ええ、次回があればまた指名します。

 しかし、私はあまり町から出ませんからどうでしょうかね。

 それよりも、イレブンさんにはもう一つ仕事を頼めますか」


「レイのことですよね。

 任せてください。

 今回の報告の後に登録を済ませます」


「必要があれば私が身分を保証しますから遠慮なく名前を出してください」


「それには及ばないでしょう。

 俺の推薦だけで問題は無い筈です。

 でも、もしもの時は遠慮なくお名前を使わせていただきます」


「では、終わりましたらお手数ですがレイ様を私の店までお連れ下さい。

 暁の皆様もご一緒に頼みます。

 食事くらいは振舞わせてくださいな」


「ひゃー、これは剛毅だ」


「これ、行儀悪い。

 すみません、不躾な振る舞いを」


「すみません。

 お言葉に甘えて、お邪魔します」


 俺は暁の皆さんと一緒に大きな建物の中に入っていった。

 ここはこのモリブデンにある冒険者ギルドの本部だった。

 流石に、人口10万人を超す大都市なだけに冒険者ギルドも街中にいくつかあるようだが、そんないくつかある冒険者ギルドをまとめている本部だ。


 俺たちは中に入ると一躍みんなの注目を浴びた。

 それもそうだ。

 俺自身の格好も背広に革靴のいわゆるサラリーマンと云った格好で目立つが、それ以上に目立ったのが俺たちの後からついてくる盗賊たちだ。

 その数全部で18名。

 5人ほど死者を出したが、盗賊のほとんどを生け捕りにしていることが快挙と言われてもいい位の功績だそうだ。


 俺たちが中に入ると、ギルドの受付の職員が慌ててギルドのお偉いさんを呼んできた。


「おいおい、久しぶりに帰ってきたかと思ったら、ずいぶん派手な訪問だな」


「ああ、久しぶりだな」


 どうも後から慌ててこちらに向かってきたギルドの職員さんはイレブンさんとは旧知の仲のようだ。


「ちょうどさっき、フィットチーネさんの護衛を終えたところだ。

 その報告と、後ろの連中の報告がある」


「依頼完了の報告よりも後ろが気になるかな。

 直ぐにでもギルド長がお会いになるそうだ。

 俺に付いてきてくれ」


 彼がそういうと、一緒に連れて来た兵士に盗賊たちを引き取るように命令を出していた。


 俺は不安になり、イレブンさんに聞いてみた。


「あの~、この後私はどうすれば……」


「レイさん、悪いが一緒に来てもらう必要がある」


 彼がそういうと、今度は暁のメンバーに対して話しかけた。


「悪いがセブンも一緒だ。

 それ以外はここで待機してくれ。

 酒でも飲んでも構わないが酔っていたらこの後には連れて行かないからそのつもりでな」


 その後俺はギルド職員について暁のセブンさんとイレブンさんと一緒に奥にある応接室に向かった。


 応接室ではギルドのお偉いさん。

 ギルド長と数人がおり、自己紹介されたが、緊張していたのでよく覚えていない。

 ここでも俺の出自を聞かれたので、前に作ったカバーストーリーを話して聞かせた。

 きちんと考えていて良かった。

 その都度いい加減な説明をしていたら簡単に馬脚が現れる。


 ギルド側は俺のことを疑ってはいたが、とりあえず辻褄が合っているので、これ以上突っ込んでは来なかった。

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