第64話 葡萄酒の仕入れ
元々が船を使った貿易が盛んな町であったので、そう言う人を癒す施設はそれなりにあったが、どちらかと言うと庶民相手の物が多く、いわゆる中級クラスの娼館がこの町で一番多くあった。
まあ王都でも数ならそうなのだろうが、高級娼館が繁盛してくるのに伴い、高級娼館がフィットチーネさんの後からもどんどん増えており、今では勢いだけは中級娼館を凌ぐくらいにまで商いが盛んになっている。
これは至宝と言われたお姉さん方の影響も大きいとは思うが、俺が持ち込んだ、ポテトチップスや唐揚げの人気もそれなりに貢献していると言ってもらえる。
もう、転生もの定番の商人チートだな。
後考えられるのは娯楽用品のリバーシと石鹸くらいか。
あ、石鹸。
油が余っているんだった。
しかも、商いが盛んになればなるほど廃油が溜まる。
そろそろ、廃油処理も兼ねて石鹸を考えよう。
幸い、仕入れを除けば、商いの方はもう女性たちに任せて置ける。
少し過剰人員を抱えているようにも思えるが、調理場が限界なので、これ以上の増産は望めないために、店番にも余裕を持って任せられる。
俺は。ここで石鹸の制作に取り掛かることにした。
確か石鹸って、こういった転生商人チートの定番の一つで、油と灰があればできたはず。
俺は、調理場のかまどから、かなり溜まった灰を持ってきた。
そう言えば、かまどの掃除ってやったことが無い。
そろそろしないとまずい。
ある意味ちょうど良かった。
かまどの灰がそろそろ溢れ出さんばかりになっていた。
俺はあの便利なアイテムボックスに溜まった灰を全部取り込んで、中庭に出た。
中庭で、焚火を起こし、廃油を少し取り出して煮立ててみた。
ここに灰を入れればよかったんだよな。
『じゅわ~~~』
煮立った油が泡を吹いて、吹きこぼれる。
あれ、これって失敗だ。
ここから試行錯誤が始まる。
灰を水に溶かしてから、溶けだした液体だけを使ってみたり、とにかく考えられることを色々として見るも、石鹸成分のようなものはできるが、固まらない。
液体せっけんとして売り出してみようかとすら思ったが、流石に液体せっけんは受け入れられそうにないので、思いとどまる。
数日中庭で試行錯誤をしていると、同じく中庭でジャガイモの前処理をしているレンやランが不思議そうに俺の方を見ているのに気が付いた。
「ご主人様は何をなさっているので」
流石に、意味不明な事ばかりに見たようで、俺に聞いてきた。
「石鹸を作ってみようかなと思って」
すると二人とも非常に驚いたような顔をして、俺に言ってきた。
「石鹸って作れるのですか」
「石鹸って、あの高価な奴ですよね。
貰い湯している娼館でも高級娼婦しか使えない奴だって聞いていますよ」
この世界にもやはり石鹸はあったか。
当然定番の様に高価のようだ。
「ああ、できる筈なのだが、なかなかうまくいかなくてな」
すると奥から、カトリーヌが出て来た。
「ご主人様。
今よろしいでしょうか」
「カトリーヌか。
何かあったか」
「いえ、問題が出た訳ではございませんが、町の娼館から大口の注文がありましたので、その報告に。
それに、店にある酒の在庫の方もそろそろ」
カトリーヌが言うには、フィットチーネさんの娼館以外にもお酒を卸している高級娼館から酒の注文があったそうだが、店にある在庫だけでは足りそうにないというのだ。
正確に言うと、足りない訳では無いが、在庫のほとんどを吐き出す格好になりそうなので、俺に仕入れに行ってこいと言っている。
いや、言外にくだらないことをしているのなら邪魔なので、仕入れにでも行って来いと言っているのでは。
流石にそれは無いか。
でも、商売の方も相変わらず順調の様で、仕入れに行かないとまずいのは、分かる。
「分かった、明日にでも王都に向かうとしよう。
10日もあれば戻れるから、もし注文がさばききれなくなったら、その旨を伝えてくれ」
最近特に高級娼館への客が増えているようで、どこの娼館も忙しそうだ。
俺のお得意さんでもある高級娼館が忙しくなると、当然うちへの注文も増える。
そのため、かなり頻繁に王都へ行っているが、それでも間に合わなくなる時がある。
今がまさにその状況だ。
王都に行くたびに仕入れる量を増やしてはいるが、それでもなかなかゆっくりとはできない。
まあ、酒が足りなくなっているのには他にも原因がある。
あの唐揚げだ。
唐揚げ用の秘密のたれに使っているのに、王都で仕入れる酒があるが、ちょっと待て。
何も高級酒を使う必要はないのでは。
いや、高級酒の香りが正直俺にはちょっと気にはなっていたが。
そうだよな、何も高級酒で無くても良いんだ。
俺は今回、どこかで普通の酒、いや、安酒を仕入れてみようとこの時に思った。
それと、酒の仕入れについてもそろそろ別のことも考えないとまずいかな。
俺はいつものようにナーシャやダーナを連れて王都に向かう。
最近では一々ジンク村には寄っていない。
海には寄るが、村には寄らずにそのまま王都に向かうので、前回はなんと新記録の4日で王都に着いた。
ジンク村で仕入れる樽などは、冒険者ギルドに依頼して、買ってきてもらうようにしている。
それと、暇な時に日帰りでジンク村に買い物ツアーに出掛けるくらいだ。
お得意さんに卸しているポテトチップス用に使っている樽は、お得意さんから使用済み樽をわずかな金で買い取り再利用をしている。
これも、ジンク村の棟梁であるガントさんの入れ知恵だ。
樽ばかり大量に仕入れられるのは堪らないとかこぼしていた。
なので、最近は新たな樽の仕入れはほとんどせずに済んでいるから、最近ガントさんとは会っていない。
あの人のことだから、殺しても死なないような人なので心配などはしていないが、たまに会いたくなる時もある。
まあ、俺の方も忙しいので、今回は往復最短記録を狙って王都に向かう。
それでも途中で村には寄る。
何せ、有り余る欲求を処理するのにいつも外ばかりだとちょっとね。
ゆっくり室内でもしたいじゃない。
なので、だいたい中日になる辺りで、村によって宿を取るようにしている。
今回は運が良かったのか、寄った村では葡萄酒造りが盛んのようで、作られるほとんどが王都に出荷されると聞いた。
そんな村で、葡萄酒を仕入れてみることにした。
流石に、王都の庶民相手の商売だけあって、酒の質という部分では俺が仕入れている酒と比べるべくもないが、俺の考えはこれをあのたれに使えないかという一点だけなので、試しに大樽で10樽ばかり買い込んで、ダーナに仕舞ってもらった。
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