第174話 シーボーギウムの学校準備

 

 船に乗ってモリブデンからシーボーギウムまで3日で着いた。

 港で早速残していた連中から出迎えられた。


「レイ様。

 とりあえず、この町からは流行り病の脅威は無くなりました」

 町の治療を任せていたキョウカから報告が入る。

 俺はキョウカから報告を聞きながら領主屋敷に向かう。


 屋敷ではバトラーさんに出迎えられ、そのままみんなで執務室に入る。

 すぐに領地の報告を受ける。


 俺がここを離れてから二週間と経っていないので、そうそう変わるはずも無かったが、良くもなっていない。

 ただ、ジーナに任せていたことだが、この町の付近にある村々から人を集めているが、おおよそ動ける者たちは集め終わったと聞いた。

 動ける者?

 どうしても動きたくない者も一定数居るので、その者たちはそのままにしているのだとか。

 その後小声で報告してくれたのだが、ほとんどが村長やそれに近しい者たちで、流行り病の出る前は相当いい思いをしていた者たちばかりだそうだ。

 今更村を離れてもと言うよりも、今まで持っていた権力を失うことを恐れているのだとか。

「ああ、そんな奴らなら放っておいても良いか」

 それで、この町に移住してきた者たちのほとんどが獣人たちマイノリティと言うか、今まで差別されていた者たちばかりだが、大丈夫かとも聞かれたので、俺は答えた。

「ああ、そんな差別をする方がまずい。

 移住してきたものも、もともとからこの町にいる者も同じように保護する」

 どうせこの町にいる連中も獣人ほど差別を受けてはいなかったようだが、いわゆる上流と言うような者たちからは程遠い存在だ。

 この町の上流と言われて今まで良い思いをしてきた連中は流行り病と一緒にこの町から出て行った。

 どこに行ったのか知らないが……出て行ったのならば戻るのを禁止しておこう。

 町が復活して、戻ってきて権利を主張されても困る。


「バトラーさん。

 出ていった者たちの町への帰還は禁止ね」

「はい」

「問題は無いよね」

「ええ、領主様のご判断ですから」

「あとで、町に残した財産などを保証しろとか言ってこないかな」

「問題ありません。

 すべて捨てていった者たちですから」

「ならばそのように布告を出しておいてください」

「レイ様。

 どうしても戻りたいと言ってきたらどうしましょうか」

 ガーネットが俺に聞いて来る。

 ガーネットはエルフで長寿だ。

 自分が見たわけでもないだろうが、こんな状況の町などの様子を聞いたことがあるのだろう。

 それを心配しているようだ。

「その場合は俺が面談するよ。

 領主だからな」

「賄賂なんか受けては……」

 今度はバトラーさんが心配そうにしている。

 話を聞く限り今までここの領主とそう言った連中との会話は賄賂が中心だったようだ。

 確かに俺が賄賂を受けてそういう連中に便宜を図ると面倒になることは見えている。

 それに俺は前世でもそうだが、そういうずるい連中は好かん。

 あの主任のような者たちには絶対に良い思いはさせない。

「大丈夫だろう。

 賄賂が俺に出せるようならばそうそう戻ってこないよ。

 急ぎ逃げ出したのならば、逃げ出した先で商売でもすればいいのだが、それもうまくいかずに戻ってくるのだろう。

 だから、先に聞いたんだ、問題ないかと」


 当面の方針だけ決めてから、俺はすぐに学校の運営にかかわることにした。

 建屋については、港そばの比較的大きめな屋敷を宛がう。

 ここは、この町でも羽振りを利かせていた豪商の本宅跡らしいのだが、屋敷外見こそそれなりに立派なのだが、中に入ると……


「うん、今回連れてきた学生……かな。

 そいつらに手伝わさせよう。

 あいつらが使うことになるのだから」

 俺はそう言って、ダーナを港まで走らせ

 俺も一緒に掃除から始めようかと思ったら、すぐにメイドのゼブラに止められた。

 いったいいつの間にか俺のそばにいるんだ。


「あれ、ゼブラは屋敷にいたんじゃ……」

「はい、旦那様が私たちに構ってくださらないので、催促がてらと言うのは冗談だとして、貴族になられた旦那様の行動が気になりましたもので」

 ゼブラの俺に対する呼びかけもレイ様やご主人様から旦那様に変わっている。

 俺のことを貴族として扱うことのようだ。

 で、その俺がモリブデンや王都でのように好き勝手にふるまうのを心配して慌てて屋敷から俺の元に来たという。

 商人でも店主らしからぬ行動をたびたび目にしていたゼブラはここではまずいと思ったのか、すぐに俺の行動を止めてきた。

 どうも俺が一緒に奴隷と一緒に掃除をするのが不味いらしい。

 みんなでした方が効率的なのだが、どうしたものか……


 それをすぐそばで見ていた船長が、俺に代わってあいつらの面倒を見ると言ってくれた。


「船長。

 助かります」

「なに、掃除や修理など、船の中ではそれこそ当たり前だから、これも訓練の一つだとあいつらを鍛えることにしよう。

 悪いが誰か、港で遊んでいる俺の部下を呼んできてはもらえまいか」

「それなら、私が」

 ダーナがもう一度港まで行くという。

「ダーナ、それでは頼むな。

 終わったら屋敷にでも来てくれ。

 俺はここの中を確認したらすぐに戻る」


 まずは生徒を含む関係者の寮兼校舎になる屋敷の整備を頼み、俺は自分の屋敷に戻った。

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