第173話 もう一度シーボーギウムに


 とりあえず、当面やらなければならないことは終わった。

 当分は俺の都合で仕事ができる。


 いったん店に戻り、その足で拝領している屋敷に向かう。

 店に戻り、俺はみんなにすぐにシーボーギウムに戻ることを伝えた。

「なに、俺ならば7日もあれ王都に戻れるから、用があれば知らせてほしい」

「知らせる?」

「ああ、俺たちにはアイテムボックス通信があるだろう。

 あれがあればすぐに伝わる」

「そうでしたね」

「ですが……寂しくもあります」

 店長を任せているカトリーヌが娘のマリアンヌと抱き合いながら俺に訴えてくる。

 やめて、そうでなくとも俺の豆腐のようなメンタルが……あいつら知っていて俺に罪の意識を植え付けてくる。

「ああ、どちらにしてもちょくちょく戻るから。

 カトリーヌ。

 悪いが店の他に、拝領している屋敷の方も頼めるか」

「あの屋敷ですか」

「ああ、当分は外側の見えるところだけでもいいから、体裁を整えてくれ。

 費用は店の経費から頼むわ」

「はい、皆と協力しながらやっていきます」

「レイ様。

 今回誰を連れて行くのですか」

「今回はモリブデンから貴族屋敷に詳しいものを二人ばかりかな。

 あとは……そうだ、騎士の経験のある者をって、わかったよスジャータを連れていく」


 翌日、数人の女性を連れて王都を出発した。

 王都の店には護衛として三人の元騎士を置いていたが、流石に貴族になったこともあり、貴族からの嫌がらせについてはどうにかなりそうだということもあり、騎士のリーダーであるスジャータも連れていくことになった。

 俺の本心からは騎士全員を連れて行っても大丈夫とは思ったのだが、王都に残す者たちの気持ちもある。

 貴族からの横やりについてははっきり言って騎士のような力業よりも元メイドたちの機転のほうが役に立つくらいだと思うのだが、急にメンバーを変えると不安になるだろうから置いてきた。

 どちらにしてもこれからは領地であるシーボーギウムと王都、それにモリブデンとの間でローテーションをしていく。


 モリブデンに向かう時も前のように急ぎ戻ることにした。

 元メイドの二人が心配ではあったが、前にシーボーギウムでレベルアップさせたこともあり、十分に俺たちについてこれたので3日でモリブデンに到着した。

 モリブデンの店に入り、状況を確認すると預かっていた奴隷たちを戻したのにもかかわらず、耳の早い奴隷商の幾人かは俺のする教育と言うのをしてほしいと5人ばかり置いてきているというのだ。

 俺はフィットチーネさんの所に行き、相談するとフィットチーネさんの方もすでにその話を聞いており、俺に『頼む』と言ってきた。

 フィットチーネさんも教育を頼みたかったようだが、あいにく船乗りにするような奴隷がいないので今回はあきらめるとか。

 それでもいくばくかの金を俺に渡してきた。

 モリブデンの奴隷商たちから預かった金だというのだ。

「レイ様。

 教育で足りなければ追加を出すそうです」

 前に、この世界での船舶輸送の状況を聞いた時には、そんなに盛んでないと王都で聞かされたのだが、モリブデンでは商業連合との交易も盛んであり、状況が異なるらしい。

 もともとこの世界で盛んでない船舶輸送ではあるので、人材と言う面で育成が体系だってなされていない。

 そのためにどうしても人材不足になりがちだったところでの話だから、目端の利く商人なればだれでも飛びつくことらしい。


 そういえば、俺の話に無理やり学校を開かせたペンネさんの迫力は凄かった。

 俺の雇った船長の話でも、船乗りはほとんど家業で営み、継承しているとか。

 足りない分を若い奴隷を使い、一から教えるので船乗りの奴隷などいるはずがないとも言っていた。

 俺が急ぎ探しても見つからない訳だ。


 まあ、状況は理解した。

 俺は自分の店に戻り、もう一度シーボーギウムに戻る準備を始めた。


 俺が王都に向かう前にモリブデンに残る者たちに準備を頼んでいたこともあり、すぐに準備は整う。

 まあ、急ぎ戻ればシーボーギウムからモリブデンは3日もあれば足りるから、忘れものでもあれば取りに戻ればいい。

 アイテムボックスに入るものならばそれこそアイテムボックス通信が使えるので、気持ち的にはそこら辺への移動くらいの気持ちだ。


 前から修理を頼んでいる船を思い出したが、船長に相談するといずれ使いたいが今回は勘弁してほしいと言われた。

 慣れない人をたくさん連れて、慣れない船での移動はしたくないとかで、理由を聞くと尤もな話だ。

 いずれ使うとして、修理状況などを確認すると、すっかり修理と回収の方は終わっている。

 修理のために預けていた奴隷たちも今回シーボーギウムに連れてくことにしていたから、船大工に理由を説明してもうしばらく預かってもらった。

 王都で仕入れた酒を手土産に挨拶に伺うと、二つ返事で了承してもらえたが、預けた奴隷たちを譲ってほしいとも言われた。


 大工仕事に慣れて来たのにもったいないとか。

 表向きの理由としてはそんなところだが、本音としてはただでさえ足りない人手を補充したかったとか。

 引き上げる話をうちの者から聞いた船大工は、フィットチーネさんの所に奴隷の購入の相談に行ったらしいのだが、彼らは俺の奴隷だし売れないとの返事をもらったとかで俺に交渉してくる。


 そこで俺はひらめいた。

 ならば、船大工の学校もすぐに開こう。

俺は、船大工にこれからのことを説明した後、船大工の一部、暖簾分けできるものがいればシーボーギウムで引き取るからいないかと逆に相談したら、親方は急に悩みだした。

 俺はすぐに返事が欲しい訳でもないので、ゆっくり考えてほしいと言い残してシーボーギウムに船で向かった。

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