第67話 素人童貞
まあ、女性としては旦那が娼館に行きたいと目の前で言われれば面白くも無いだろう。
そう言えば、まだポテトチップスは一樽残っていたかな。
「それなら、食べてみますか。
幻かはわかりませんが私が扱っているつまみなら今出せますが」
「ええ、良いのか」
「レイさん。
食べ物なら私も興味があります」
「ダーナ。
ちょっとこっち来て」
一応暁さんは信用はしているが、それでも用心に越したことがないので、ダーナのアイテムボックスを使うようなそぶりで、ポテトチップスを少し取り出して、あいている皿に盛った。
「これなんですが、是非食べてみてください」
皆おそるおそる口にして、一斉に驚いた顔をする。
「おいしい~」
「ただ、これ量が作れなくて高価になっているので、高級娼館にしか卸していないのですよ。
ですので、普通の人は見たことすら無いのかもしれませんね」
「そうなのか。
でも、これなら話題になるのも頷ける。
とにかく酒に合うのが良い」
「ええ、お陰で商売の方も軌道に乗りました。
これもフィットチーネさんのお陰です。
また、フィットチーネさんの紹介で王都のドースンさんと知り合い、そのドースンさんの紹介でバッカスさんと取引をさせて頂いております。
今回王都に来たのも、その酒の仕入れのためでしたが、ついでに護衛を頼まれたという訳です」
今回護衛することになった経緯を暁さんには説明ができた。
その後は、色々とバカ話をして楽しい時間を過ごした。
夜は、俺たちだけ前にオークションの時に泊めてもらった宿に向かった。
流石高級な宿だ。
俺たちのことを覚えていて、直ぐに部屋に通してくれた。
流石に値段の方も凄かったが、とにかく俺は夜の大運動会を気兼ねなく楽しみたかった。
ここでは既に経験済だったので、全く問題なく、その夜は過ごせた。
翌日は、バッカス酒店の前に集まってから、直ぐに出発となった。
道中も、普通では考えないくらいの速さでの移動となる。
この速さは、いわゆる特急便と同じくらいのスピードだと、セブンさんはこぼしていたが、それでも流石ベテランの暁の皆さんはへたることなくその速さで移動していく。
まあ、速く動けば動くほど安全は確保できるわけなので、決して悪い訳では無い。
まず野生の魔物だと、速く動いているうちは襲われる危険は少ないそうだ。
唯一速さに関係なく危険なのが人だという訳だが、それは待ち伏せされた場合で、予め俺たちの行動が漏れている場合に限られる。
そうでなければ、魔物同様に速く動くことで危険性は下がるというのがこの世界の常識のようだ。
まあ、その特急便並みでの移動についてこられる護衛が居ないのと、運べる荷物の量にどうしても限りが出るので、経済性から見てほとんどの場合行わない。
俺たちが速く移動できるのも、アイテムボックスのお陰で、手ぶら移動できる状態なので、速く移動できる訳だ。
今回は馬車に付き合う為に、どうしてもスピードは出せないが、それでもドースンさんに頼まれて、移動用の荷物を俺の方で預かっている。
そのおかげで、馬車も軽くなり、馬の負担が減ったので、スピードを維持しても長距離に移動ができている訳だ。
昨夜ギルドの食堂でダーナのスキルを見せた格好になったのだが、出発前に荷物をダーナに取り込んでもらった時には、暁さん全員が驚いていた。
その日の夜に野営地で、その話題になった時にはドースンさんが顔をしかめた。
面白くはないのだという。
だから、それが面白いのかバッカスさんが面白おかしく暁さん達に説明していた。
俺がオークションではずれを安く買ったらそれが『お化け』になったということを、事細かく説明していた。
最後にドースンさんが『くそ~』って唸った時には全員で爆笑していた。
本当に人が悪い。
俺としてはスキル?のお陰で初めから知っていた。
尤もすぐに治療ができるとは思っていなかったが、それでも治療できると知って買ったので、正直今回のような場では少しきまりが悪い。
全ては鑑定先生のお陰で、ずるをしているような気になる。
何事もなく無事に4日後にモリブデンに着いた。
俺たちは冒険者ギルドに顔を出して護衛依頼の報告を済ませた。
「あれ、お久しぶりです、レイさん」
受付で俺に声を掛けて来たのは、前に俺担当と言われたマーサさんだった。
あれからそんなに時間は経ってないのだろうが、すっかりマーサさんは受付嬢としてしっかり仕事をしているようだ。
「あれ、レイさん。
レイさんも隅に置けないね」
暁の一人が俺を冷やかしてきた。
「前に主任さんに紹介されたんですよ。
俺担当だとかで、何かあればマーサさんに言えとね」
「ずいぶん優遇されていますね、レイさんは」
「当たり前だろう、あの盗賊をほとんど一人でやっつけたんだぞ」
「それもそうでしたね」
「でも、羨ましいですね。
あんなに美人を、それも二人ですよ、二人。
それだけでも十分にうらやましいのに、マーサさんまで」
どうも既にマーサさんはここでは人気の受付嬢にまで出世しているようだ。
だが、俺は心の中でしっかり弁明しておく。
確かに美人を多数囲ってはいるが、マーサさんとは相手をしてもらっていない。
そう、俺はまだ素人童貞なのだ。
多分、素人とは一生縁も無いだろうけど、それでもまだ手を出していないストックを4人も抱えているからマーサさんに相手されなくとも良いんだ。
流石にモリブデンでは俺のことは少しばかり知られているようで絡んでくるものは居なかったが、それでも俺の方を睨みつけているのは居る。
まあ、同じ男なら分からんでもないが、これがいわゆる勝ち組って言うものか。
結構気持ちが良い。
でも、あまり調子こいて後ろから刺されるのは勘弁だ。
一応、目立つ行為は避けて、俺はギルドを出て、店に向かった。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
店先で番をしていたカトリーヌが俺達を見つけて挨拶をしてきた。
「ああ、ただいま。
それより調理場は今誰が」
俺はカトリーヌが油の前から外れているので、少しばかり心配になり、訪ねてみた。
「今は、ユキさんが揚げているのでしょうか。
マリアンヌが見ておりますから、大丈夫ですよ」
もう、マイやユキに任せているらしい。
一応、マリアンヌかカトリーヌが見ているそうだが、それもそろそろ要らなくなりそうだと教えてくれた。
今では、作業を止める前に少しだけレンやランにも油で揚げる作業をさせているとも教えてくれた。
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