第66話 スケベおやじの大行進

「ああ、そう言うことなのね。

 分かったわ。

 あなたたち、これ以上騒がない方が良いわよ。

 レイさんは私たちの命の恩人でもあるのだからね。

 尤も、ここであれをやらかしたら、それこそ大事ですから、あれだけは絶対にやめてね、レイさん」


 あれ、土石流のことか。

 流石の俺も、その考えはないよ。

 あの時は俺一人だったから、やむなしというより、俺にはその意図はなく、只助かりたい一心でアイテムボックス内にある全てを吐き出しただけだ。

 だが、今回はあいつらだけなら、ナーシャを押さえている手を離せばすぐにけりが付くが、流石に相手に致命傷を与えてはこちらも言い訳ができない。

 ダーナ一人でも対処できそうだが、できればそれも避けたいかと考えていたところだ。


 正直、暁のセブンさんに声を掛けてもらって助かった。


「あなたたち、私たち暁を敵に回して暴れてみますか」


 セブンさんの止めの一言で、俺に絡んできた酔っ払いたちは散っていった。


「正直助かりました、セブンさん。

 ありがとうございます」


「いえ、何でもないわよ。

 確かに私もレイさんに助けられていなかったら、あっちに回っていたかもしれないしね。

 あいつらの気持ちも分かるのよ。

 バッカスさんの護衛って結構おいしいから人気があるの。

 何でも急ぎモリブデンに向かいたいらしく、拘束される時間も少なくて、それでいて依頼料は相場の料金が出るから、レイさんのように新人がその依頼を受けたと聞いてはベテランたちは面白くは無いわよね」


「そうなんですか。

 なら次からは少し考えないといけませんね。

 それより、皆さんはお元気ですか。

 モリブデンにいても、なかなかお会いできませんでしたから」


「あいつらなら、元気過ぎて困るくらいよ。

 あ、やっと来たわ。

 レイさん、この後時間があるのなら一緒にご飯でもどうですか。

 あいつらは飲んだくれになるでしょうが、それで良ければですが」


「是非、ご一緒願います」


 その後暁さん達と、一緒に飲んだ。

 ナーシャは勿論、ダーナもアルコールは口にしていない。

 俺は流石にナーシャには許さないが、ダーナなら飲んでも構わないと言ったのだが、彼女は頑なにアルコールを受け付けない。

 飲めないはずは無いのだが、どうも自分だけ酔うと夜の大運動会でナーシャに後れを取りそうなのを警戒しているようだ。


 そう言えば、久しぶりに宿で泊まることになるし、彼女はかなり期待している。

 ま、せいぜい場がしらけないように俺の方が気を使って、その場を楽しんだ。

 暁の男どもはダーナやナーシャのことが気になるようだったので、飲み始めてすぐに彼女たちのことを紹介しておいた。


 そう言えば二人とも暁さんたちとは初対面だった。

 一緒に盗賊のアジトに行ったが、あの時はナーシャは既に保護済みで、フィットチーネさんの屋敷に居たし、ダーナに至っては俺も会っていなかった。


 あの事件以降トンと暁さんたちとはご無沙汰して居た訳だ。


「それしても不思議なのだが、バッカス酒店の店主もそうだが、ドースン奴隷商の店主も一緒なのだろう、今回は」


「ああ、そうと聞いているけどな。

 それが何だ」


「だって、あの大店の店主二人がそろって移動って何かあるのか、モリブデンに」


 どうも、最近のモリブデンの変化は一部の紳士たちの間だけに知られていた話で、庶民たちにまでは話が伝わっていないようだ。

 まあ、急に娼館に活況が出てきたと言っても町全体の景気が良くなったと感じる訳も無い。


「レイさんは、バッカスさんと取引があるのか。

 直接依頼を受けたと聞いたが」


「ええ、お取引をさせて頂いております。

 それが何か」


「今回の件、何か聞いていないか。

 背景が分からないと守りようがない」


 イレブンさんは酒が入ってもチームのことを考えている。

 まあ、あの傭兵崩れの盗賊に襲われたこともあったためだろうが、何か警戒をしている。

 俺の口から言っても、とは思ったが、あのスケベおやじのことだ。

 王都でも有名になっているだろうから、言っても問題無いだろう。

 口止めされていないし、今のモリブデンの変化についても俺にも責任の一端はあるのだろうが、それを言ったら、お姉さん方の護衛をしていた暁さんにもある筈なので、正直に皆さんにお伝えしておいた。


「前に暁さん達とご一緒したことを覚えておりますか」


「ああ、忘れる筈がない。

 それが何か」


「あの時、フィットチーネさんがお連れしていたのが誰か知っていますか」


「奴隷だろう。

 フィットチーネさんがそう言っていたけど」


「ああ、あの綺麗な人たち。

 それが何か」


「あの方たちは、王都でも有名な娼婦だったのです。

 王族でも簡単にお相手できないような、王都の至宝とまで言われていた方ですよ」


「確かに綺麗な人たちだったわよね。

 でも、まさかそんなに有名人とはね」


「ええ、普通庶民ではお会いできないような方たちだったようで、バッカスさんやドースンさんのような人たちの間では相手して貰うだけでステータスだったようです。

 それが、モリブデンに来てからフィットチーネさんが始めた娼館で働いているのですが、王都の時よりも敷居が下がったようで、今各地から紳士たちがモリブデンを目指していると聞いております」


「え、何それ。

 ただのスケベおやじの大行進って」


 流石に女性であるセブンさんは一刀両断に切り捨てた。


「ですので、今回は2回目、いや、ひょっとしたらもっと行っているのかもしれませんが、モリブデンの娼館に通うための様ですよ」


「今のモリブデンはフィットチーネさんの娼館に限らず、娼館はどこも大忙しの様ですね。

 そのおかげもありまして、私の商売の方も順調に来ておりますから」


「そういえばレイさんは何を商っているの」


「主に高級酒を王都で仕入れて、モリブデンの娼館に卸しております。

 最近ではそのついでにおつまみも扱っておりますが」


「ああ、その話は聞いたことがあるな。

 なんでも高級娼館では幻のおつまみを出しているとか」


「ああ、それ俺も聞いた。

 王都でも、一部高級娼館でしか扱っていない幻のおつまみだよな。

 王都よりもモリブデンの方が比較的扱っている店の数は多いらしいが、そう言うのが本当にあれば俺も一度くらいは食べてみたいな」


「それを理由にしても、高級娼館になんか行くお金はありませんよ」


 イレブンさんのボヤキをこれまたセブンさんは一刀両断だ。

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