第70話 品質のばらつき
確かにこの世界にある物の多くは、その品質は褒められたものばかりではない。
これは上品な表現だった。
はっきり言って工芸品など、いわゆる金持ちが贅沢品として買う物以外は、まともなものが無い。
当然、俺は知らないが石鹸も下手をしなくともそうなのだろう。
尤もここに居る連中は石鹸そのものを見たことが無いので評価できない。それでも、これって商品になるのかもしれないが、それなら俺が最初に作った無臭の石鹸とどうして違ったのか。
あっちは無臭だ。俺なら考えなくとも無臭の方を選ぶ。
そう、何故皆で作った物と、俺が遊びで作った物とで、こうも品質に差が出たのか。
俺が後から一緒に作った物も彼女たちと同じレベルだから、俺の匠技という訳ではない事だけは分かっている。
この辺りについて、もう少し研究を重ねないと売り物にならない。
尤も、石鹸が売れるようになったとしても、作る場所も無いのが問題だ。
当分は使っていない厩舎を使うかして急場をしのぐとしても、やはり別棟を早く検討しないとまずいか。
となると、金を稼ぐしかない。
当分石鹸の研究をしながら資金稼ぎをしていく。
早いもので、石鹸の研究を始めてから一月が過ぎようとしていた。
途中2回も王都に仕入れに行ったから正味半月くらいしか研究に時間はさけなかったが、一つ分かったことがある。
無臭の物ができる時と、臭いものができる時があり、もうあの匂いのする石鹸を臭いものと言ってしまっているが、驚くことに、王都の仕入れの途中で、野宿しながら作る時は、一切臭いものができない。
それで、俺はよくよく考えた。
夜、交代で俺にまたがってくる女性たちを相手しながら。
そう、あれはダーナのきついのを心地よく感じていた時に閃いた。
臭い石鹸は壺から油を取り出して作っていると云うことを。
無臭なものは例外なく俺のアイテムボックスから油を取り出していた。
そこで、翌朝一番にポテトチップスを作っている油を少しばかり頂いて、二通りの製法で作ってみた。
一つはそのまますぐに苛性ソーダを入れて石鹸を作る。
もう一つは、一度俺のアイテムボックスに油を仕舞ってから、直ぐに取り出して同じ要領で作る。
結論から言うと、俺の推論は正しかった。
偉そうに言ったが、要は、使っている油が問題だった。
試しに、一度も使っていない油でも試してみた。
要は油に不純物が混じるとその臭いが付くだけの話だった。
それなら、塩と同様に俺が油を準備すればいいだけの話だが、不純物の匂いが付くなら、良い香りのするものを混ぜたらどうなるか。
確かこの世界にもバラのような花はあった。
香りも同じような奴だった。
その花びらを細かくして混ぜたら、俺の考えている様にバラの香りにする石鹸ができないか。
試さない手はない。
直ぐに街中で、いくつかの種類の花を買ってきて、色々と作ってみた。
出来上がったよ、香り付き石鹸が。
これを売り出す前に、市場調査だが、まずはお姉さん方に献上してご意見を貰う。
とりあえず、俺は用意した三種の石鹸を持って娼館を訪ねた。
これって、立派な営業だな。
あ、前世も営業だったから、変わりないか。
俺は傍で訓練をしているナーシャ達に声を掛けてから、外にでた。
「すみませ~ん」
「あれ、レイさん。
今日は納品ですか。
もう、昨日カトリーヌさんから納品されましたが」
「いえ、今日は別件です。
石鹸をお持ちしましたので、お姉さん方にお見せしたくて」
「営業ですね。
レイさんからの営業はいつも驚かされますから。
直ぐにお呼びしますので、いつものように奥にどうぞ」
俺は入り口にいたごついフロアー担当の人に通されて、奥に向かった。
ほとんど待つことなく、教育中の女性たちを連れているサリーさんがやってきた。
「レイさん。
ごめんなさいね。
まだこの子たち教育中なので、一緒でいいかしら」
「ええ、一緒に見て頂いた方が私としても」
俺はそう言いながら、今回もって来た石鹸を取り出して、サリーさんに前に出した。
「え、レイさん。
これって、石鹸?」
「ええ、今度うちで扱おうかと考えている物です。
まだ、品質的にはちょっとと言うのもありますが、こちらで売れないかと」
サリーさんは一つずつ石鹸を手に取り確かめるように眺めている。
「いろんな香りがするのね」
「サリー様。
これ、花の香りがします」
「こっちは無臭ですね」
「え、私のは、あのおつまみの香りですが」
連れている女性たちが、サリーさんが手にしたもの以外を傍で見ていた。
「え、どういう事?」
サリーさんは女性たちが変なことを言いだすので、それぞれの石鹸の匂いを嗅いでいく。
「え、レイさん。
これ、どういう……ことですか」
え、また俺やらかしましたか。
目のまえにいるサリーさんが驚いていた。
「ええ、石鹸造りに挑戦していくうちに、さっきあの子が言ったように、変な臭いが付いてしまい、理由を探りました。
それで、材料に臭いがあると作った石鹸にその臭いが移ることが分かりまして、それならばと、試しに花の香りも付けてみましたのがこれです」
俺は、そう言いながら花の香りにする石鹸を手に取りサリーさんに手渡した。
「確かに、良い香りですね」
サリーさんはまだ驚いている。
「まあ、先ほどおつまみの匂いと言ったやつは、失敗作ですね。
捨てるにもったいないので、持ってきましたが、やはりだめですかね」
「「「す、捨てるなんて」」」
女性たちは一斉に驚いている。
あれ、また仕出かしましたか。
「レイさん。
捨てる必要なんてありませんよ。
十分に石鹸の様ですし。
これでも売り出せば相当な高値が付きますよ」
「そうなんですか。
それなら作ったかいがありますね。
正直モッタイナイからどうしようかと。
結構、失敗しまして、今一番数がありますから」
「そうなんですか……て、今レイさん。
石鹸を作ったって言ってませんでしたか」
「ええ、試しに作りましたが」
「ひょっとしてまだ使っていないとか」
「一応、手を洗うのには使っておりますが、風呂では使ったことはありませんね」
「それでは、試さないといけませんね」
サリーさんはそう言うと、直ぐに傍にいた子に何かを言いつけている。
その子は一旦部屋から出て行ったかと思うと、直ぐに戻ってきた。
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