第155話 生贄と言う名の領地拝領

 

 本当に今の説明中でも、目の前の宰相閣下は俺に遠慮することなく『生贄』という言葉を使ったよ。

 まあ、侯爵で宰相から見たら俺に遠慮などするはずもないが、それでも本当に問題の統治には困っていたようだ。

 ポッと出の俺が統治に失敗しても今更だし、王族の権威にも傷もつかない。

 だからと言って知識もない野心ばかりの無能者に渡す訳にもいかないとあって俺にお鉢が回ってきたとか。

 すでに俺は病気に関してだけならば不治の病である生き腐れ病も治療した実績が伝わっているようだし、俺の叙爵の理由も有力貴族の嫡男の病気治療だったことは広く伝わっていた。

 それだけならば領地の下賜には功績面で少し足りないようなのだが、そこにきて王都にすら入れることをはばかられた獣人たちの扱いについて見事な見識を示して、あの後のあの獣人たちには病気を発生させなかったという事実が奴隷商をはじめとして広く王都中に広まったので、これならば無理も陞爵できるとばかりに俺にとなったらしい。


 話を聞くと、いろいろ面倒そうなのだが、割と納得がいった話だ。

 尤も当事者が俺でない限りのことで、俺の希望など一切お構いなく、とにかく呪われたと言われてすらいる場所の統治を投げよこされた……あ、まだだ。

 この後陛下よりたまわるらしい。


 宰相の説明の後に、簡単な書類手続きを無理やりさせられて、あとは陛下からのお言葉を待つだけにまでされた。


 ここまでされて、宰相ともどもパーティー会場から呼び出された。

 普通、叙爵や昇爵の場合、陛下との公式対面用の大広間で式典が行われるようなのだが、俺の場合、大々的にするといろいろと問題が、特に野心を持つ貴族連中からのものがあるので、あくまで新貴族の紹介のついでに行われるらしい。

 しかし、このパーティーも公式行事であるので格式的には問題がないとか。

 よくわからん。


 そんな感じで、俺が控室で会った騎士爵たちの紹介をそれぞれの大臣たちが陛下にしており、いよいよ俺の番となりカッペリーニ伯爵から彼の嫡男の紹介の後に俺のことを簡単に説明しながら陛下に紹介していた。

 その後、先の宰相から獣人たちの件で報告が入り陛下が少し考えたような仕草の後に俺に名誉男爵と、獣人たちの故郷である港町とその周辺の村を下賜するとの宣言がなされた。

 尤も俺の戴く港町も先の疫病のために少し大きめな村程度の人しか住んでいないらしく、俺のもらった周りの村は誰も住んでいないらしい。

 なら、村をよこすなんて言わなければいだろうにとも思うのだが、一応登録された村なのでその帰属をはっきりと示す必要があるらしい。

 とにかくそんな茶番も無事に済ませて俺はパーティー会場から連れ出された。

 この後会場に残っていらない貴族たちからの面倒ごとを避ける意味と、領地の下賜に関する手続きなどもあり宰相と一緒に事務方のもとに連れていかれた。


 聞くところによるとパーティーは夜通し行われるようなのだが、一応公的なパーティーはすでに終わったとのことで、会場に戻る必要がないと俺は事務方から解放されるときにそう言われた。

 要は面倒ごとになるので会場には近づくなってことか。


 俺も好き好んで貴族と話したいとも思わない。

 さっさと馬車を呼んでもらい店に帰っていった。


 店に帰ってからも大変で、特に男爵家から奴隷落ちしたメイドたちからの追及はすさまじく、俺はたじたじになりながらの一つ一つ答えていった。

 しかし、貴族社会に詳しい彼女たちにとってもわからないことばかりで、なかなか追及が終わらずにそのまま夜通しの会となる。

 いつの間にか他の女性たちも混ざり、なぜか乱交となって、翌朝を迎えた。


 なんだったんだよ、昨夜のあれは。

 まあ気持ちもよかったから別にいいけど、メイドたちからの追及でも結局のところ良くわからないという結論となり、今日は朝からこの後のことについての話し合いが持たれる。

 流石に店を開かないわけにもいかず、交代してどうするかを話し合っていくが、結局のところ、拝領した領地に出向かないと統治もできないというしごく当たり前の結論に至った。


 昨夜からのあれは何だったのだろうとは思うところもないが、俺がさっさと方針を出しておかなかったのが一番の原因だったので、何も言わない。

 貴族がどうとかなんて結局のところ王都や大きな街以外では何ら関係が無い。

 ましてや他の貴族が度々訪れるような街道筋でもないので、他の貴族の目を気にする必要もない。

 それだったら俺が住み易いようにしていけば良いだけの話で、とにかく現場に行くことになった。

 移動はいつものメンバーだけでもとは思ったのだが、俺の方を何かねだりたそうな顔をしながら見つめている元騎士たちがいる。

 はいはい、連れて行けって話だよな。


 それでは、さっさと行くかと思いきや、そこにストップが入る。

  元メイドたちが言うには初めてのお国入りにはそれなりのしきたりがあるとかないとかだ準備をしないといけないらしい。


 とにかく貴族の初めてのお国入りなのでそれなりの格好をつける必要があるとかないとか。

 色々とお国入りするのに面倒なことがあるらしい。

 まずは、俺の領主就任と、お国入りについての一報を現地いる人に伝えないとまずいらしいが、これは冒険者ギルドでも使って、手紙を出すのが一般的だそうだ。

 向こうの町にギルドが残っていれば例の速達便も使えるようなのだが、話に聞く限り無理っぽい。

 一度ギルドに行って相談しろとメイドたちから言われている。


 本来こういった面倒ごとは家宰などの執事職がする仕事らしく、メイドたちも良くわからないということだった。

 今まで特に貴族関係では無類の強さを誇っていた元メイドたちだが、イレギュラー対応については弱いらしい。

 嫡男のお国入りでも珍しいことなのに、領主が変わってのことなど経験どころか聞いたこともないとかで、実務については使えない。

 だから俺が直接王都の冒険者ギルドに出向いて、相談している。



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