第156話 ギルドとの相談
男爵になっただけあって、相談相手は冒険者ギルドのギルド長が俺の話を聞いてくれる。
「ギルドでは速達で情報を知らせる仕組みがあるとか、こことモリブデンとでは簡単にできているようだが、あそこって言ってもなんと言った地名だったかな」
「へ?
ご自身の領地を知らないのですか」
「ああ、度忘れしてしまった。
え~と、確か……、ああそうだそうだ、シーボーギウムと言ったかな」
「シーボーギウムですか、聞かない……すみませんでした。
最近疫病で壊滅したという港町ですね。
そこのご領主となられたと、これは……」
うん、ギルド長は壊滅した町を知っていたようで、どう言葉をつないでよいかわからないようだ。
そりゃそうだなよな。
俺でも火中の栗を拾った……いや、無理やり拾わされたようなものだから、でもそんな事情を知らなければ言葉を詰まるよな。
「ご愁傷さまと言ってもらっていいぞ」
「いえ、そんな……」
「拝領したのは事実だ。
そこを治めないといけないが、まずは国入りをするにあたって先触れを出さないといけないらしいな。
俺は最近貴族に取り立てられたものだから、そういうのに疎くていけないよ」
「え、貴族になられたばかりですか……ひょっとして病気を治すものすごい方と言うのは……」
「どう伝わっているか知らないが、俺のようだな。
元はモリブデンで商売をしている……あ、今もしているが、今では王都でも商売をしていてそこそこの稼ぎを出しているが」
「あの、ひょっとして石鹸の販売で有名な」
「ああ、多分そこだ」
「そうですか」
「だから、無理やりかしこまる必要も無いぞ。
そもそも受付での相談でもよかったんだよ。
俺、冒険者でもあるしな」
「え、え~~」
ギルド長はかなり驚いている。
最近はもっぱら商業ギルドにしか顔を出していないからそうなるが、最初は冒険者としてこの世界で始めたようなものだ。
すぐに商売を始めたものだから商業ギルドにも加入したけど、今でも森で仕留めた物は冒険者ギルドに卸していたはずだが、……ああ、そういえば最近はダーナたちに任せきりだったから、本当に冒険者ギルドに来たのは久しぶりだ。
ギルド長も落ち着いてきたので相談を始めるが、シーボーギウムにはギルドは無いらしい。
港町だった、いや今でも港町ではあるが、壊滅したこともあって今まであった商業ギルドもギルドを閉鎖しているらしく、冒険者ギルドはかなり前からギルドを閉めているとか。
国境を超えると森が広がり、魔物が多く生息するらしく、致死の森と呼ばれ、誰も踏破したものがいないらしい。
近くに魔物がいるのならば冒険者ギルドも稼ぎに困らないと思うのだが、どうもそうではないらしく、生息する魔物がとにかく強く、名のある冒険者くらいしか森での活動ができないという話だ。
一部少数相手に事務所を維持できないと、早々にギルドは撤退したらしい。
話を戻して、ギルド事務所が無いのであの便利なメールシステムが使えないらしい。
「そういう場所では、普通はどうしているのだ」
「はい、大概の場所がそうなのですが、そのような場合には冒険者を派遣して手紙を届けてもらっております」
「そういうことか、なら俺もそうするべきかな」
「それが、良いかと思います」
冒険者に手紙を託すなら俺が運んでも良くないかな?
聞くだけ聞いてみよう。
「その手紙を運ぶ冒険者って、こっちで指定できるものなのかな」
「ええ、貴族の方たちにはなじみの冒険者がいるようでして、中にはお抱えなんかもおります。
ヘイタ卿御贔屓が、もし居るのでしたらそちらに頼みますか」
「ギルドを通さなくてもいいのですか」
「そうですね、ギルドを通さずに直接される方もおりますが、あまりお勧めは致しません」
色々と理由がありそうで、簡単に説明を貰うと、手紙が確実に運ばれる保証がない。
お抱えならば別なのだろうが贔屓程度ならば対立する貴族からの工作も入りやすく、ギルドを通しても対立する貴族などからのちょっかいがないとは言わないようなのだが、ギルドの罰則があるので冒険者への工作もしずらいとか。
まず、工作がばれた冒険者はギルドの資格は剥奪されるし、依頼した貴族も名をさらされ、かつ、二度と冒険者ギルドに限らず、商業ギルドからも依頼を受けてもらえなくなるとかで、工作依頼をする方もされる方もリスクが大きすぎてまずないだろうということだった。
うん、なら贔屓に依頼する方法を聞いてみたら、手紙を出す依頼をかけるときにギルドにその旨を伝えればいいらしい。
尤もその際手数料はしっかりととられるが、安全だけは担保されると説明された。
ならば、ダーナたちに頼もう。
そういうことで、俺は手紙が無いのにもかかわらずダーナたちに指名依頼をかけた。
後でダーナにギルドに行ってもらう。
冒険者ギルドの話し合いも終わり、一度店に戻ると王宮からの使者が店まで来た。
なんでも男爵に陞爵したことで陛下より王都に屋敷を下賜されるとかで、その手続きに来たそうだ。
色々と書類にサインをさせられた後、その使者に下賜される屋敷に案内される。
店からほど近い場所にその屋敷はあった。
見た目では……うん、手入れをされなくてかなりの日数は経過しているだろう。
庭も広いが、とにかく雑草がひどい。
門に金属が使われてはいるが、それも錆が出ている。
一緒に付いてきたタリアは、その屋敷を見て、「この屋敷を維持するには最低でも20人は必要ですかね」なんて簡単に言い放つ。
確かに、俺の抱えている奴隷たちは総数でその数は超えてはいるが、皆仕事を持っている。
それに、それなりの技能と言うか経験もいるだろうから誰でもいい訳でもないだろうに。
まずは、王都の店にいるみんなの住まいをこちらに移すことからか。
それに屋敷の手入れ、住むことができるようになるまで相当な日数を要しそうだ。
「タリア、これどう思う」
「そうですね、少なくとも手を入れないと住めません。
すぐに依頼しますか」
「そうだな、どうするかだが、どちらにしても人を手配しないと維持できないのだろう」
「王都の店を閉じて私たちが移っても手は足りませんしね……」
「ああ、それに閉めるのって許されると思うか」
「いえ、ご主人様が貴族になられたので、却って難しいかと」
「常連の貴族たちか」
「はい、それに……」
タリアが言うには貴族の屋敷を王都に構えた以上一度はお披露目のパーティーを開かない訳にもいかないらしい。
流石に王都に住む貴族たちは、この屋敷の荒れ具合を知っているのですぐにとは言われないということなのだが、それにしたっていつまでもこのままともいかない。
陛下より拝領された屋敷を粗末に扱っては不敬に当たるとか。
そもそもすぐに使えない屋敷を貰ってもうれしくもなんともない。
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