第87話 太陽熱温水器

 

 王都とモリブデンの往復を6日でこなした。

 今までの最高記録だった。


 まあ、相当暗くなっても月明かりがあるうちは移動したから実現できた数字で、今まで遊んでいたツケがあるから無茶をしただけの話で、いつもしたいとは思わない。


 いや、遊んでいた訳では無いが、これも仕事と言えば仕事のようなものだが、本業としている酒類販売ではなく、風呂場の建設だから、お客からしたら遊んでいるように見られても仕方がないか。


 幸い、苦情までは来ていなかったが、危なかった。


 一度信用を無くした商人の末路は哀れだ。


 本当に危ない。

 次からは気を付けたいが、そろそろ王都の往復も誰かに任せられると良いのだが、まあ、その内考えよう。


 店に帰ると、すっかり酒の在庫は底をついていたが、どうにか間に合ったようだ。


 俺は店を任せているカトリーヌに注文先を聞いて、直ぐに配達に向かった。


 全ての配達が終わり、やっと店でゆっくりできるようになった時に、ガーナが報告に来た。


「ご主人様。

 頼まれていたパイプが、ある程度の数揃いました」


「ああ、ありがとう。

 どれくらいできたかな」


 俺はガーナと一緒にパイプを置いてある厩舎に向かう。

 厩舎の端にパイプがかなりの数並べられている。


 流石にシームレスパイプなど作れないので、ここで作っているパイプは青銅の板を作り、丸めてパイプ状にして、つなぎ目に溶けた青銅を垂らして溶接のような感じにして作られている。


 まあ、水が漏れなければ良いだけの話だが、数は申し分ないレベルまでそろったようだ。


 明日から、水回りの工事を始めよう。


 翌日から作業を始めた。

 幸い青銅用に小さな炉を作っていたので、炉を使い作ったパイプを温めてから曲げていく。

 俺の思い描いたように、パイプを曲げていき、屋上に太陽熱温水器らしきものを設置することができた。

 早速テストとばかりに屋上に用意してある給水用のタンクに俺のアイテムボックスから水を入れ、装置を使ってみる。


 幸いなことに、この世界にもバルブと云うものが存在している。

 青銅製だが、十分に使えるレベルのバルブが街中の専用の店でわずかばかり扱っていたのだ。

 無ければ、作らないといけないと思っていただけに、正直助かった。


 その買ってきたバルブも、どうにか十分に性能を発揮して太陽熱温水器に水を張ることができた。

 後は、温まるのを待つだけだ。


 夕方になり、早速お湯を風呂場に流す。

 正直、朝から温めたのではなかったので、少しぬるいが、入れないことは無いのでみんなで入る。

 俺達の後に、子供たちも風呂に入れたいので、風呂場では遊ばずに、さっさと出たが、正直太陽熱温水器だけでは心持ち物足りない。


 明日まだ残っているパイプを使い風呂場の横に小さなボイラーも作る。

 造りは簡単で、浴槽からパイプを使い外に作った小さな炉の中にパイプを太陽熱温水器の様に通してあるので、炉の熱で、十分にお湯は温まる。

 これを使えば、シャワーもできそうだとばかりに早速シャワーも作り、その日もみんなでテストしてみた。


 シャワーはことのほかみんなに喜ばれた。 

 うん、これも使えそうだ。

 ただ、今度は御湯が熱すぎた時の対応に難があることを見つけた。

 幸い、夏で無かったので、今回のテストでは問題ないが、シャワーを使う時に一緒に風呂も温まるので、これもどうにかしないといけない。

 まあ、冷ますためにも浴槽横にも冷水用のタンクを用意する。


 そんな感じで、なんだかんだと毎日テストしていると、子供たちから大変喜ばれた。


 毎日風呂に入れる贅沢ができたと。

 贅沢?

 確かにこの世界では風呂は贅沢品のようで、俺も、貰い湯ができたから数日ごとに風呂に入れたが、普通はそんなことはできない。


 まあ、みんなからも色々と意見も貰い、どうにか使用に耐え得るレベルの物ができたと自負できる。


 これなら、この装置を使えば娼館でも風呂を個室に提供できそうだ。


 俺は、早速商館を訪ねて、お姉さん方に相談してみた。


 お姉さん方は、実物を見て見たいと云うので、フィットチーネさんも誘い、俺の店に集まってもらった。


 日もまだ高い位置にあるので、少しもったいない気もするが、ボイラーも整備してあるし、そのボイラーの実演もできるので、早速太陽熱温水器から水を風呂に引いた。


「え、この水、少し暖かいわね」


「でも、これだとお客様にお使いするにはぬるくない」


「ええ、ですから、浴槽にはってある水を温めます。

 こちらの装置を使います」


 俺達は風呂から一旦出て外に回り、ボイラーの前に来た。


「ここで火を焚き、風呂のお湯を温めます。

 これなら追い焚きもできますから、冬でも問題無く風呂はお客様にもお使いできるかと思います」


 俺達は、もう一度風呂場に戻り、ボイラーと繋がっている辺りの御湯を確かめてもらう。


「熱いわ、これ」


「どれどれ、あ、本当だ」


「これなら使えそうね」


「レイさん。

 それよりも、これ何なのかしら?」


 早速、洗い場に用意してあるシャワーを見つけたエリーさんが聞いてきた」


「それはシャワーと言いまして、こう使います」

 俺は早速簡単に実演してみた。


「え、な~に、これ」

 早速みんなが驚いている。


「これを使うと簡単に石鹸の泡が取れますよ」


 この後みんなが、思い思いに風呂場を堪能していた。


 一通り、みんなが試した後に、実際に娼館で使うならどうなるかについて、上に作ってある食堂スペースで、相談を始めた。


 せっかく食堂に集まったのだから、俺は前に店の連中に出したフライドポテトと唐揚げを作り、酒も出して歓待しながら相談してみた。

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