第125話 病院用地

 

 すぐに俺たちは中に通されて、ドースンさんと面会中だ。


「レイさん。

 もうバッカスのところに寄ったってな」


「耳が早いですね」


「ああ、何せレイさんは美人どころをぎょうさん連れているからね。

 すぐに噂に上るよ」


「あ、それでバッカスさんに聞きました。

 あの件、かたがついたようで、ドースンさんにもご面倒をおかけしました。

 お姉さん方にお礼の件を聞いたら、『これで最後だからね』と釘を刺されましたが了承してくれました。

 バッカスさんにも話しましたが、金額や日付等については直接店に問い合わせください」


「おお、俺も大したことはしていなかったが、それは助かる。

 本当に今回は悪かったな。

 仕事らしい仕事をしてもいないのに、ご褒美だけはしっかり頂くことになって。

 で、レイさんは王都にいつ戻るのかな」


「え、ドースンさんも常連さんから圧力があるとか」


「なんだ、圧力って」

 俺は先ほどバッカスさんと話したことを伝えた。


「あ、そういう意味では俺にも問い合わせは来るかな。

 それよりも、俺もそろそろあの飯が食いたい」


「そういうことですか。

 先ほどもバッカスさんに話しましたが、私がモリブデンに戻り次第、王都に戻ります」


 その後のやり取りも、先ほどのバッカスさんとほぼ同じことをした。

 スケベおやじの考えることは一緒になるものだとつくづく感心した。


 俺は。一応王都での義理も果たしたので、すぐに王都を離れてモリブデンに戻っていった。


 無事に酒を仕入れて、モリブデンに戻ると、病院経営の話が進んでいたから驚いた。

 自分の店に戻り、仕入れた酒を渡すと、子供たちまでもが手伝わされて配達に出て行った。

 俺が戻ると店の酒はほぼ底をついていたので、かなりギリギリだったようだ。


 その後落ち着く間もなく俺はフィットチーネさんに呼び出されたので、取るものもとりあえずすぐにフィットチーネさんの店に向かった。


 フィットチーネさんのところでは、あのめんどくさい存在になりつつある外国の奴隷商はいなかったので、俺は安心してフィットチーネさんの話を聞けたのだが、内容はあまりうれしい話ではなかった。

 面倒な病院の件が、話が勝手に進められているらしい。


「レイさん。

 病院の件ですが用地を確保できましたので、一緒に見に行きましょう」


 俺はすぐにフィットチーネさんに連れ出されて港傍まで連れ出された。

「船員が主な顧客ではないですね、患者になるようですから港すぐに用地を探したら、ちょうどいいタイミングで、つぶれた貿易商の跡地を確保できました。

 レイさんから見て問題が無ければ、ここを病院にしたいと思うのですが」


 フィットチーネさんからそういわれて紹介された店はかなり立派なつくりの建屋だった。

 しかし、どこからどう見ても貿易商を営んであっただけあって、店なんだよな。

 絶対に病院には見えないし、何よりと港のメインストリート面した場所は出入りの激しかった往年を髣髴とされるように間口が広々と取られている。

 これが奴隷商のように立派だが出入り口が小さめで、人の出入りを制限できるような作りならば問題はなさそうなのだが、それに何より元貿易商だけあって港の一等地にあるので、俺は少しばかり気後れしてしまう。


「フィットチーネさん、ここって一等地ですよ。

 さすがに貿易商を営むのならばいざ知らず、病院ってこんな場所に建てるものなんですか」


「そうですね、病院そのものが珍しいというか、かなり眉唾物扱いされておりますからね。

 それに何より貴族や上流階級な者たちは聖職者を呼んで自宅で治療を受けますしね。

 今回のようなケースそのものが珍しくて私もどうしようかと悩んではおりました」


 今さらっと言われたことにとんでもないことを言われたような気がする。

 眉唾ってこの世界でも使う言葉なのかと少しばかり驚いたが、そんなことはどうでもいい。

 そもそも病院そのものが受け入れられていないという話ではないか。

 そんなことで病院経営が成り立つのか。

 それに何より、めんどくさい外国の奴隷商は、眉唾扱いされている病院経営を本当にやりたかったのか、そっちの方が気にもなる。


「他に場所はないのでしょうか。

 眉唾扱いされているのなら、もう少し庶民的というか……」

 俺がスラムのそばでもいいかと言葉を探しながら話そうとしていると、すぐに反論を食らった。


「患者になるのが、海外から来る貿易商かその関係者になりますから、港そばである方がいいでしょう。

 それに何より、主たる患者になるだろう船乗りだって下級の船員はお金を支払えるかわからないでしょうから、私はそれなりの人相手になると考えております。

 それに何より、港のそばって、なかなか人気があって場所が確保できないものなんです。

 この場所も、あの人たちの伝手で他の外国の貿易商が抑えていたのを譲ってもらった経緯もありますし、できれば……」


「そういうことなんですね。

 わかりました。

 ですがこのままっていう訳にもいかないでしょうから、私の方で改装したいのですが……」


「ええ、ええ、それは構いません。

 すぐにでも営業するわけでもないので。

 それに何よりここでの人もそろえませんといけませんよね。

 今、元聖職者の奴隷を三人で探しております。

 それに私たちは出資はしますが経営はレイさんですから、そのあたりの契約もきちんとしてからになりますしね」


「では、改装は契約後に」


「いえ、いえ。

 ここはすでに私が買い取っております。

 ですので、改装の方は先にレイさんの方で好きに進めてください」


「わかりました」

 俺はそう返事をして、店の鍵をフィットチーネさんから受け取った。


 当然病院というからには病床が必要だよな。

 それも治療ターゲットが高級船員や商人たちになりそうだ。

 あ、それにこの町で売られてくる奴隷たちも患者の予定に入るだろう。

 何せ、きっかけがその奴隷たちの治療から始まったわけだし。


 ならば個室と大部屋で病床を用意する。

 数はというと、個室と大部屋を合わせて20は必要か。

 確か20以下だと医院とかクリニックとか言わないといけなかったような。

 あ、それに医者も3人以上必要だったとかって、この世界に医者はいなかったし、どうしよう。


 そんなくだらないことを考えながら自分の店に戻り、王都の店の再開についてみんなに説明後にもう一度王都に向かった。

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