第153話 パーティー当日の王宮に
その後、一度ドースンさんに店に寄り、ここでも雑談。
掘り出し物の奴隷についても聞いておく。
当然、掘り出し物がそう簡単に見つかるはずもなく、ただ俺が店に居たくなく街に出ただけなので、雑談で終わり、その日も終わる。
準備期間などあっという間に過ぎて、今日は晴れて王宮にご招待される日だ。
普通ならば親などが付き添い初めてのお使いならぬ王宮にデビューとなるが、大人の俺にはそんなものは無い。
とにかく、訳わからずでも困るというので、俺は準備期間を利用して伯爵家の執事やうちのメイドたちから色々と教わっているが、あくまで座学だ。
どこまで役に立つか本当に不安だ。
ひょっとしたら、俺がこの世界に落とされた時以上に不安感が募る。
お腹までいたくなってきたが、さぼるわけにもいかずに、手配してあった馬車に半ば押し込められて王宮に向かった。
店の前でさんざん駄々をこねていたのだが、メイドたちもこれはだめだと判断したのか、獣人たちの力を借りて俺は馬車に押し込まれた。
主人のはずなのに、最近俺の扱いがひどくなっていくような気がする。
まあ、意地悪をされたら、その分夜に仕返しを寝室でするのだが、何分人数が多いと負ける日もある。
いわゆる返り討ちになるってやつだ。
まあ、たとえ返り討ちにあっても気持ちがいいのでかまわないが。
借りている馬車は俺が指示を出すまでもなく王宮のそれも表玄関の筈は無く、通用口?って感じの……と言っても造りは下手な豪商の店先よりも立派なのだが、王宮内のメインストリートから外れての玄関に通される。
ここは貴族未満と言われ揶揄されることの多い騎士爵や準男爵などが利用する玄関口だそうだ。
借りている馬車も商業ギルドから回されているだけあって、毎回俺のようなものを案内しているので慣れたものだ。
普段の王宮でのパーティーは騎士爵はほとんど呼ばれないと聞いているが、それでも毎回何かしらの理由があり、騎士爵もそれ相当な人数が参加するという。
騎士爵や準男爵の母数が非常に多く、全体のうちでわずかと言えども人数的にはある程度の数になると説明されたことを思い出した。
当然、騎士爵なんぞが自分の馬車を持っている筈もなく、毎回俺のようにレンタルに頼ることになるらしい。
これは商業ギルドからの情報だが、毎回レンタルを業としているので間違えではないだろう。
なので、商業ギルドでも貴族の社交シーズンは馬車レンタルの商売はかなり割の良いものらしい。
俺もたった一日だけなのだが相当取られた。
流石商人の元締めだけある。
そんな玄関口に留められた馬車の扉を王宮の職員??が開けてくれ、俺をエスコートしてくれる。
俺のような訳わからずも毎回出るのだろう。
すぐに一人のメイドが俺について控えの間まで案内してくれた。
部屋の中には数人の男性が思い思いの様子でパーティーまでの時間を待っている。
俺が想像していたような貴族外交のようなやり取りは見えない。
どちらかというと他人には関心が無い様に装っているが、興味津々といった感じか。
多分、皆初見だろうと思われる。
貴族というのは面子も大切にしているが、それ以上に人脈も大切にしているとメイドたちから教わったので、やみくもに外交をする必要はないとか。
多分この人たちもそうなのだろう。
自分の寄り親と敵対する勢力に思わず情報を渡すことの無いよう紹介でもされない限りは話すことは無いのだろうな。
さて、俺はどうしよう。
こういうパーティーは爵位が下の者から集まると聞いているから俺たちが一番最初に集合したのだろう。
それも俺が一番新参者だから、この後にも騎士爵と呼ばれる貴族が集まってくるのだろう。
何せ、この部屋にはまだまだ十分空きがあるというか、この人数には不釣り合いの広さがある。
多分だが、ここがある程度人で満たされた頃から本当に貴族が集まるのだろうから、パーティー開始までは2時間は見ておかないといけないか。
ネットどころかスマホもないこの世界で2時間以上どうやって暇をつぶそうかな。
貴族ならば待合室にあたる控えの間くらいまでは使用人を連れてくることができるらしいのだが、それはあくまで男爵以上、それでも男爵位だと遠慮するのが普通だそうだ。
尤も男爵位になると、同じ派閥に属する貴族との外交が忙しいらしく、使用人と遊んでいる暇はないと言われるが、それも騎士爵になると、もともと王宮でのパーティーに呼ばれることの方が珍しいので、同じ派閥に属する者と会うことの方が珍しい。
これがパーティーでも始まると、同じ派閥に属する上司にあたる貴族、男爵以上の貴族がいるので、今度は忙しくなるらしい。
しかし、俺はカッペリーニ伯爵の派閥に属するようなのだが、派閥の貴族を知らない。
そういえば一度だけ嫡男の快気祝いの席で紹介されたが、それはあくまで俺の紹介であって、俺は貴族たちと個別に挨拶はしていない。
元々からして俺は優秀とは真反対の人間なので、一度挨拶されたくらいではいちいち覚えきれない。
そういう意味でも名刺交換って良くできたシステムだ。
名刺でも交換されたのならば、忘れないうちにもらった名刺に特徴などをメモしておくので、だいたいが二度目には失礼の無いよう辛うじて対応できるのだが、あの時には名刺交換はしていないし、そもそも個別に挨拶も紹介もされていないので名前すら知らない。
顔は見たが、覚えている自信は全くないので、今日はどうしよう。
失礼の無いようにできるだけ隅でおとなしくしていよう。
それでもさすが王宮だけあって、俺たち最下級の貴族?たちのためにもこの部屋にも飲み物と軽い食事のようなものまで用意されている。
まだだれも手を付けようとはしていないようだが、俺には関係ない。
別に対面を気にする人用もなければ、俺の行動で顔をつぶされる人もいないだろう……カッペリーニ伯爵はってか、たぶん大丈夫だ。
ついでの用件で叙爵しただけで、あの後何か言ってもこなかった。
一度だけ呼び出されたが、それも今回のパーティーへの呼び出しのためだったし、俺に貴族としてのふるまいまで求めていないようだった。
それに出されたものがあるので、別に手を出しても寄り親にあたるカッペリーニ伯爵の体面を傷つけることにもなるまい。
俺は、本当にやることが無いので飲み物と、スナックのようなつまみ??をもらい部屋の隅にある椅子に座ってちびちちびりと楽しんでいた。
もらった飲み物は酒のようだったが非常に薄く、これなら1~2杯程度ならほろ酔いにすらなるまい。
まあ、がぶ飲みするようなことはしないが、そこは社会人を数年もしかもあのブラック職場でのいじめ付きで経験しているのだ。
酔って羽目など外すか。
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