第133話 診察
翌日、バラバラで仕事をしていた二人の奴隷商と食堂で落ち合い、さすがにこの時ばかりは女性たちに遠慮してもらい別テーブルで、お話をしながら俗に言うブレックファーストミーティングと言うやつになった。
俺は昨日さっそく頂いてしまったためにお二人には、頭が上がらないというか、負い目があるので、ほとんど言われるがままに彼らの話を聞いていた。
話し合いでお二人はというよりも一人がやたらと熱心なのだが、病院建屋の方ももうじきできることだし、戻ればすぐにでも診療ができるようなので、できるようならばすぐにでも始めてもらいたがっているが、さすがに事務関係にいささかの不安があるので、暫定的ではあるが、フィットチーネさんやもう一人の奴隷商の紹介者のみに限り治療するということで落ち着いていた。
どうも熱心だった一人、お名前をペンネさんというのだが、そのペンネさんには治療してもらいたい人がいるようだ。
昔世話になった縁者が話に聞く限り同じ生き腐れ病に罹患しているらしく、諦めかけていたとかで俺の件でわずかな希望を見たので、フィットチーネさんに無理言って病院を開かせた経緯がある。
そんなことならば言ってくれればよかったということで、俺が出向いて治療くらいはしてもよかったと思ったのだが、そういえば俺はペンネさんとは縁が無い。
急に頼まれても俺ははっきり言って断っただろう。
だって、正直知らない人について外国まで行くのなんて正気の沙汰ではない。
話し合いの結果、出発予定は明後日まであったのだが、明日にペンネさんの国に向かう船があるようなので、その船に乗ってペンネさんの店に向かうことになった。
フィットチーネさんとしては今回のカッパー商業連合国の訪問は俺のための仕入れが目的だったのだが、自分の店の仕入れもしているので、それならばいっそのこと諸国連合でも仕入れてみようとなり、一緒に諸国連合まで行くことになった。
話し合いの結果、カッパー商業連合国での買い物は今日までとなる。
朝食後に分かれて皆街に出歩くことになるのだが、俺たちはというと、正直あまり魅力もない。
何せ昨日十分に町ブラを堪能していたのだ。
珍しい酒の仕入れについてもはっきり言ってあまり成果もなかった。
そういう意味では王都にあるバッカスさんの店はある意味すごい。
カッパー商業連合国はさすがに商いが盛んなだけあって、色々と珍しいものにあふれているが、こと酒や食品についてはモリブデンからの輸入品が幅を利かせている。
なので、モリブデン在住の俺からしたらあまり魅力もないのも事実だ。
少しばかりみんなでお散歩して、早々とホテルに戻る。
今日は、キョウカさんやムーランから生活魔法を教わることになっている。
お二人は教会に出されることになっていたようで、幼少の頃よりしっかりと魔法教育はされており、結構そういう魔法についても詳しそうだ。
少なくとも全く知らずにいろいろと使っている俺よりは詳しい。
一緒にダーナやナーシャにも魔法の基礎を教えてもらう。
昼過ぎにホテルに戻り、皆で部屋にこもって魔法の勉強だ。
俺も、ダーナも知らず知らずのうちに魔法を使ってはいたけど、はっきり言ってよくわからない。
この町で仲間になったキョウカたちから教わる魔法はとにかく知らないことばかりだ。
はじめに基本的なことから教わるが、あの魔法経路とかいうやつの話は俺でも何となく予測がつく。
何せ俺はダーナに悪戯改め治療をしている時にはっきり見えていたのだ。
どうも見えていたあの経路やつぼのようなもののことらしい。
俺が二人にその話をすると非常に驚いていた。
普通は自分でおなかのあたりに感じるものらしく、これが感じられないようならば生活魔法すら使えないとのことだって言っても、俺たち誰も生活魔法は使えない。
ひょっとしたら店にいる連中は当たり前のように使っているのかもしれないが俺は見たことが無い。
モリブデンに戻ったらみんなに確認してみよう。
で、一番難しく、最初に挫折することの多い魔法経路についてはダーナも俺も問題が無いらしい。
ナーシャが一人魔法経路を感じることができなくてつまらなそうにしているので、皆でナーシャの面倒を見た。
どうしてもコツがつかめそうにないというから俺がナーシャにツボ押しなどしてみると、途端に分かったようだ。
その後は順調に魔法教育は進み、俺もダーナも水を出すまでは出来た。
ナーシャはまだ難しそうにしているので、何度も練習するということでこの日は終えた。
翌日朝からみんな出港に行くと目的の船は既に出港準備を終えており俺たちを待っていた。
俺たちが色々と荷物を持ち込んでいたので、それの積み込みをしたので少々時間は要したがそれでも午前中の風のあるうちに港を出ることができた。
今回の船旅はこの町に来る時のような地獄は無かった。
何せ少しでも気持ち悪くなるとキョウカやムーランに状態異常回復の治療魔法をかけてもらった。
船酔いも状態の異常になるらしく、途端に効果が出るが、それでもすぐに気持ち悪くなり出すので、何度も交代で治療してもらったのだ。
二人の尽力により俺は無事に目的の諸国連合の港町に就くことができた。
俺たちはさっそくペンネさんに連れられて患者の元に向かう。
船から降りて、すぐに迎えの馬車が来ていたので、俺たちはそれに乗り丘の上にある患者のいる家まで向かった。
丘の上は貴族や裕福な商人たちの邸宅が並ぶいわゆる高級住宅街の一角にこれまた大きな屋敷の前まで連れてこられた。
貴族の屋敷らしい建物も多くあるが、その中でもひときわ威容を誇る屋敷だ。
ペンネさんが言うには、自分が奴隷商を営む際に相当面倒を見てもらったという現在は男爵に叙されているらしいのだが、大商人らしく、男爵位もどこぞの有力貴族を面倒見ていたら勝手についてきたとか。
早い話が借金返済の代わりに押し付けられたらしいのだが、貴族らしくない人で、とにかく面倒見の良い人らしい。
早速屋敷の中に案内されて、家宰の人に患者の下に案内された。
確かに瘦せ細って見るからに病人という人が寝ている。
『先生出番です』
俺の鑑定先生を呼んで、診てもらうと確かに生き腐れ病となっている。
その他に追加情報として壊血病とある。
生き腐れ病とはこの国では脚気も壊血病を一緒くたになっている。
どちらもビタミン不足から来る病気だが、不足するビタミンが違うだろうと一人突っ込みを入れたくなった。
また、まだ症状も出ないくらいに非常に軽症なのだが骨軟化症とまである。
骨軟化症ってこれもビタミン不足の病気だけどこれも生き腐れ病かと思ったのだが、どうも違うようだ。
この世界ではあまり認識の無い病で病名すらなさそうだった。
いったいこの人は何をしたんだ。
「わかりました、患者を診察してみます。
いくつか質問を良いですか」
「はい、私でわかる範囲でよければですが」
「まず、いつから発症したのかわかりますか。
また、その原因に心当たりがありますか」
「あ、それならばわかります。
旦那様が仕事でカッパー商業連合国に出向き、その帰りに乗っていた船が嵐に会い、しばらく漂流していた後他の船に助けられた時にはどうも病気になっていたようです。
ひょっとしてこの病は船乗りが恐れている生き腐れ病ですか」
「ええ、そのようですね」
「「「ああ~~~」」」
部屋にいる家宰やメイドたちが一斉に顔を手で覆って泣き出した。
家宰などはある程度この事態を予想はしていたようだが、実際に病名を言われるとやはりショックのようで暗い顔をしている。
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