第42話 ドースンさんとモリブデンに
俺と出会った時も、その暁さん達が護衛をしていたが、あの時は時間の関係でキャラバンとは別行動であったために襲われていたのだ。
オークション会場のある王都で商売をしているドースンさんは、ほとんど王都から出ることが無く、贔屓にしている護衛も、自前で抱えている護衛も居ないから、俺に依頼をしてきたと言う訳だ。
俺としてもキャラバンに付いていくだけなので、構わないが、最初に王都に来る時と同じように倍の時間がかかるのがちょっと思わないこともなくは無い。
でも、せっかく御贔屓にしてくれる大店でもある訳で、俺にはことわる選択肢はなかった。
酒店を出た後は、ドースンさんとも別れて、王都の町を散策して歩いた。
俺たちは数日王都に足止めされることになる。
今、王都にいるキャラバンと一緒にモリブデンへ帰るために、そのキャラバンの出発まで王都に滞在しないといけないそうだ。
まあ、キャラバンだって、長く王都にいる訳ないので、待っても数日という話だ。
王都を散策して歩いたが、これと言って掘り出し物には出会えなかった。
王都の宿で、いつもの通りダーナと楽しみ、ナーシャの世話をして、翌日、商業ギルドに顔を出した。
商業ギルドでは、キャラバンの予定を聞いたら、明日の出発と教えられ、その足で、ドースンさん宅に向かい、モリブデン行きについて簡単に相談しておいた。
ギルドでキャラバンのことを聞いた話では、途中にある町や村には寄るらしいが、基本キャラバンの移動では、全て夜営とのことだ。
これは商品を置いて馬車から離れて宿で泊まることができないという理由だとかで、中には護衛だけを残して宿に泊まるのもいるそうだが、野営地とそれほど離れていない時に限られるらしい。
そのために俺たちに何か準備が要るかどうかを聞いてみたが、俺たちの準備は不要とのことだ。
いくら王都からあまり出たことのないドースンさんも、流石に俺以上の知識と経験はあるので、その辺りに抜かりはない。
翌日、商業ギルド前にある広場はキャラバンの馬車の他、ドースンさんのようについていく商人たちが持ち込んだ馬車で一杯になっている。
「久しぶりだが、壮観だな」
「順番なんか有るんですか」
「順番?」
「隊列の順ですかね。
どういう順で出発するのですか」
「別にそんなのなのは無いな。
先に町から出るのを見れば、出来る限りキャラバンに近い場所に居たいというのもいるが、俺は別に構わない。
まあ最後辺りをついていくよ。
だからレイさんもゆっくりしていて大丈夫だぞ」
「別に私にはもうやる事は無いので。
それに私はもう必要以上に物をもっておりますから、これ以上は王都では買えませんよ」
「アイテムボックスか。
本当にうらやましい限りだ。
尤も俺は商売では使えないから、宝の持ち腐れになるからな。
あ、奴隷なら、良い値段で売れるかな」
ドースンさんの話を聞いたダーナが一瞬顔をこわばらせた。
今度はダーナか。
俺はダーナをなだめるために耳元でささやいた。
「大事な夜のお供を俺は売るつもりはないぞ。
安心してくれ」
俺の言葉を聞いたダーナを顔を赤らめたが、直ぐに穏やかな顔に戻った。
そんな様子を見ていたドースンさんからはからかわれたが。
「悪い、悪い。
なんだか怖がらせたようになったが、只の世間話だ。
レイさんから奴隷を売ってもらうつもりは無いし、何よりこの国では奴隷の所有権はどんなものよりも守られているから、誰もレイさんからダーナだっけか。
所有権を奪うことはできないよ。
喩え王族でもね」
前にお姉さま方から聞いた話だが、ダーナの場合もそうだ。
そう言う意味ではダーナが奴隷であるから、隠すことなくアイテムボックスを使わせているんだ。
そんな雑談をしながら広場から馬車が減るのを待っていた。
「さて、そろそろ出発しようか」
ほとんど最後に、ドースンさんが自身の奴隷に馬車を動かすように命じていた。
俺は、今回もフィットチーネさんが使っていたような馬車にドースンさんと一緒に乗っかって、モリブデンを目指していく。
道中、娼婦のこと以外の話は無く散々聞かされたが、それ以外には本当に特筆することなく8日でモリブデンに到着した。
普通の道中よりも2日少なく済んだ理由は、キャラバンは基本夜営のために、歩いて旅するよりも一日で移動できる距離が長かったためだ。
移動そのものの速度は歩くのと変わりがない。
何せ、多くの護衛たちは馬車を囲むように歩いて移動していた。
本来ならば俺たちもそうするべきだったのだが、ドースンさんが気にせず、「いいから乗っておけ」って言っていたのだ。
当然夜営も、馬車内で眠ることになるが、それはいわゆる雇用主だけ。
俺たちは、焚火を焚いて、その周りで休む。
流石に、夜のルーチンだけは、今回は無かった。
俺が流石に恥ずかしい。
とにかく、無事にドースンさんをモリブデンのフィットチーネさん宅に送り届けて俺の仕事は終わりだ。
俺はそのまま自宅に帰り、早速あれを作り始めた。
鍋も王都で買ってきたし、油も十分な量を仕入れてある。
薪に火をおこして油を熱し、薄く切ったジャガイモをどんどん揚げて行く。
「ご主人様。
それ、私が代わりましょうか」
ダーナが交代を申し出てくれたので、俺は揚げる作業を頼んで、揚げ終わったチップスに塩を振りかけて行く。
まだ熱いが、一口……うまい。
「ご主人様?
作っているのはご飯ですか」
「いや、酒のつまみだ」
「つまみ??」
「お酒を飲むときにちょっと食べたいかなって時に出す奴だ。
ナーシャも食べてみるか」
「え、いいんですか」
「ああ、ダーナも一旦手を休めて食べてみてよ。
二人の感想を聞きたい」
俺たちは山盛りに出来上がったポテトチップスを仲良く食べてた。
二人は目を丸くして、驚いたかと思うと、どんどん食べて行く。
よっぽど気に入ったのか。
あれほどあったポテトチップスは簡単に無くなった。
「ご主人様。
すみませんでした。
あまりに美味しくて、全部食べてしまいました」
「ごめんなさいです。
ご主人様?」
「二人とも気に入ったようだが、感想を聞かせてくれ。
売り物になると思うか?」
「ご主人様?
これとっても美味しいですよ。
絶対に売れると思います」
「ご主人様。
ナーシャと同じ意見です。今まで食べたことのない味ですので、私はとてもおいしいとは思いますが、いくらなら売れるかどうかまでは分かりません」
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