第138話 双葉の嗅覚

 美咲のことをアパート近くまで送り双葉と二人きりになった。

「りんくんさ。私たちに隠していることあるでしょ」

「ねーよ」

「椎崎さんと隠れて仲良くしてるとか」

 双葉の発言に驚いてしまう。俺はうまく美咲との関係を保っているはず。それがばれたというのか。

「なんでそう思った」

「きっかけは文化祭のあと。りんくん椎崎さんがいなくなるタイミングでトイレいって。そのまま帰ることなったでしょ。椎崎さんからは急に迎えが来たからたまたま出会わせた自分に帰ることを伝えるよう言われたと聞いたけど嘘だと思った。そもそもりんくん椎崎さんのことになると熱くなるじゃん」

 いくら美咲でも無理を重ねすぎて疑われだしていたか。

「全部たまたまだろ。あの時はすぐにと言われたから仕方なくだし、椎崎がほんとに使えなくて邪魔だったからいっただけだ」

「じゃぁさ。今日さ二人で乗った人形にやつ。不自然すぎた。椎崎さんがあの場所好きなのはわかった。一方的だったとはいえ椎崎さんがあそこまで力抜いたのは場所だけでないと思うんだよね」

 双葉の観察力も鋭いな。さすがに隠しきるのは無理がでてきていたか。

「嘘はついてない。ただ、関係がないというのは違う。実行委員の時班が一緒だったから自然と話すようになっただけだ」

「なら付き合ってないって言いきれる?」

「俺があの高貴な存在と付き合えると思うか?」

 結婚相手最有力候補らしいけど。

「あり得るよ。だってりん君って優しいから」

「それだけで」

「理由はわからないけどりんくんって自己犠牲をするタイプだとおもう。周りから嫌われても助けようとする。まだ出会って日は浅いけどりんくんはそういう人間だと信じてる」

「ありがたく受け止めておく」

「ちゃんと教えてよ」

 俺の服を引っ張り出す。焦った表情を見せている。

「いったいどうしたんだ」

「教えて」

「もう何も隠してないって」

「なら椎崎さんを問い詰める」

 今の美咲にきかれたところではっきりとした答えは返ってこない。あいつは俺と一緒ということは隠してくれた。だからこの質問がくれば濁して正しいことを話すだろう。だが今の双葉はほぼ確信をもって疑っている。濁すということに気づかれればさらに問い詰めてくるだろう。

「椎崎に迷惑になるだろ」

 とはいえ、今スタンスを変えれば隠しているといっているようなものだ。ここはうまくそらさないといけない」

「はぁ。わかった。なら、一個だけ約束して、隠してようがなかろうが私と仲良くするって」

「当たり前だ」

「わかったありがとう!」

 笑顔が戻った。正直この程度のことで俺は詰められていたのか。

「私もうすぐそこだからもういいよありがとう!」

 走っていった。とりあえず二人をちゃんと送り届けたということで俺もアパートに帰ろうかな。

 

「りんくんの見せたあの時の笑顔。私は知らない。あの女にりんくんは奪われたくないな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る