第113話 料理を作る理由
めちゃくちゃ重い。両手にビニール袋にぎっしり入った食材。三人といわれたら多くなるのは覚悟していたがこの量は半端ない。特に2L水三本とかきちくかよ。
「すいません思った以上に多く買ってしまって」
いつもだったら申し訳なさそうにして、下目使いを使っていた。今は無表情で言葉だけの建前だ。申し訳なさそうとは絶対に思っていない。
「気にするな。どうせ帰るところ同じだし」
そして美咲は小さな袋からお菓子を取り出し食べだす。俺には見向きもしないで1人で。私に雑用させて食べるお菓子はたいそうおいしいでしょうね。
「今日は何がいいですか?和食も中華も洋食もなんでもいけます」
「中華」
美咲であればおいしくないものはない。単純に脂っこいものを食べたいだけだ。
「了解しました。では、油淋鶏、回鍋肉、棒棒鶏にでもしましょうか」
すごい豪華だ。三人ということを考慮したとしてもすごい並びになりそうで今からでも期待できる。
「ありがとうな」
当たり前だった美咲が料理を作ってくれる環境。今思えば当たり前と思っているのが間違いだった。美咲が料理してくれること。それは感謝すべきことなのだ。
「だから勝手にやっていることなので」
「興味ないやつに料理を作るってどんな気持ちなんだ?」
椎崎はなぜ俺に料理を作ってくれるのか。今の俺にはなにも思うことはないはず。そんな俺に料理を作る意味がない。
「わかりません。私は楽しいです」
楽しい?まだ美咲のなかに俺との思い出は残っているのか。おそらく美咲はそれを知らない。何があったか知る人物が今日来るだろうし詳しく問いただすか。
「みさ、椎崎はおもったより優しいんだな。学校だと気を使っているようにしか見えないが」
今の関係で下の名前でいえばまたひかれてしまう。今は苗字でよむことにした。
「当然です。学校は皆さんに好かれれば私の勝ちです。あなたにはこの自分がばれるのも時間の問題なので隠す必要はありません」
ここも最初にあったころに変わらない。本当に昔の椎崎に戻っているようだ。やはり俺の知る椎崎美咲はもういなくなってしまったのだろうか。
「やっぱりお前はそういうやつだよな」
俺との思い出がないだけで椎崎美咲は変わらない。それだけでも安心してしまう。「まるで私を知ってるかのように。話したもの昨日が初めてなのに」
辛い。そんな美咲と俺はまた一緒になっている。なぜ料理を作るという再び近くなる可能性が高いものだけを残したんだ。いっそのことすべてをなくしてくれれば終われたというのに。
「もうきてるようですね」
赤い車が止まっているもう薫さんは来ているようだ。
「ただいま戻りました」
「あ、おかえり」
平然と俺の部屋でくつろいでいる。なんで俺の部屋の鍵をもっているんだ。
「今から作るので少々お待ちください」
「お願いね」
二人の会話も最初見たときより自然だ。
「面白いでしょ」
「何したんですか?それを話しに来たんでしょ」
「食事を終わったらね」
食事後。そこで薫さんから明かされるのだろう。
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