第114話 俺の立場はいったい

「とりあえずこちらを」

 椎崎は油淋鶏をテーブルに置く。そしてすぐにキッチンに戻り次の料理を作り始める。量的には2人としては少ない思える。まぁ残り三品作るようだからそれを考えての配分なのだろう。

「美咲ちゃんとほんと料理うまいよね」

「ありがとうございます」

 いつも通りおいしい。さすが椎崎クオリティ。安定のおいしさがある。

「・・・」

 とはいえ、一緒に食事をしているのが薫さんということもあり緊張してしまう。

「何緊張してるの?力抜いていいよ。美咲ちゃんの記憶にも私たちは仲のいいって植え付けているから」

 植え付けている?

「あんた!」

 つい怒りを見せてしまった。これもあの人の手のひらにいるようなものだ。薫さんは俺がここで怒りを見せることもわかっているはずだ。

「草加君?」

「ほら落ち着きなよ」

 ここは冷静にだ。椎崎美咲を解放するヒントを確実に薫さんがもっている。それを引き出すことが優先だ。

「わるい。少し取り乱した」

「やっぱり君も面白いね」

 この人のペースに乗らないように警戒しておかないと。いつどのタイミングで自分の土俵に乗せてきているのかがわからない。


 そしてすべての料理が完成した。

「じゃぁもう帰っていいよ」

 冷徹な声が薫さんから発せられる。

「わかりました」

 美咲はいつもどおり薫のいうことをすぐに了承した。

「食べていかないのか?」

 美咲が拒否できないのはわかっている。あくまでその確認のための質問だ。

「食べる?私はこのこと同じテーブルで食事する気はないよ」

 返答は美咲ではなく薫さんから言われた。

「そういうことです。私にはここの座席に着く権利がないです。なので帰ります」

「お前の分もあるだろ。それを消化されないと困る」

 引き留める理由ならなんでもいい。今は食事を楽しみたい。そのためにはこの場に美咲がいることは必要不可欠。

「わかりました」

「早く帰って」

 薫が鋭い目を見せてきた。その空気間は俺ですら従ってしまうほどの恐怖を感じる。

「ごはんが余らせるわけにはいかないので」

 否定した。あの薫さんを美咲が。なぜだ。

「なるほどね。ならご飯を食べたら帰ってね」

 そして薫さんはすぐに元に戻る。了承したのは謎だ。俺ごときの一言が美咲を動かすことはできてもそれは一瞬だけ。薫さんなら簡単に塗り替えることができるはずなのになぜ。

「ありがとうございます」


 食事中は会話が全く広がらなかった。美咲は一緒に食べるものの薫と目を合わせようとしていない。薫さんはどこか不機嫌そうだ。この後何が起こるのであろう。

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