第245話 変化と争い
朝になった。双葉が早めに待ち合わせている可能性もあるため、いつもより早く外に出た。多分、美咲よりも先に着くだろう。
1時間程度早く出ただけで冬の寒さを改めて実感する。吐く息が白く、コートを羽織っていても冷たい風が首元に入り込む。手袋を忘れたのが悔やまれる。
約束の場所に向かう途中、周囲を見渡しても人通りはまばらだった。朝早いせいか、車の音すら聞こえない。静けさに包まれる中で足音だけが響く。ふと、双葉のことを思い浮かべた。昨晩の電話の内容が頭を離れない。
「俺は本当に双葉を守れているのか……?」
呟きながら歩いていると、約束の路地が見えてきた。
まだ双葉は来ていないようだった。周囲を見回しても彼女の姿は見当たらない。ポケットに手を突っ込んで寒さをしのぎながら、路地の入口付近で立ち止まる。時間より少し早いとはいえ、双葉の性格を考えるとすでに到着していてもおかしくない。
「まだか……」
小さく呟いたその時、携帯が振動した。取り出してみると、双葉からのメッセージだった。
「ごめん、少し遅れるかも」
「まあ、こんなもんだよな」
ほっと胸をなでおろす。遅れると言ってもそれほど長くはかからないだろう。待つ間に何か考えようと、路地の壁にもたれかかった。
頭に浮かぶのは、昨晩の双葉の言葉と、美咲の不可解な行動だ。双葉は間違いなく何かを察している。俺の言動が彼女に不信感を抱かせているのは明らかだ。それでも俺は、美咲を守りたい気持ちが消えない。だがそのせいで双葉をさらに傷つけている気がしてならない。
思考に沈んでいると、遠くから走ってくる足音が聞こえた。顔を上げると、制服姿の双葉が息を切らしながら駆け寄ってくるのが見えた。
「ごめん、待たせた!」
双葉は立ち止まると両手を膝につき、息を整えようとしている。
「別に大したことないさ。早く出た俺のほうが予定より早かったんだしな」
そう言って肩をすくめると、双葉が微かに笑った。その笑顔を見て少しだけ救われた気持ちになったが、同時に昨晩の話題が頭をよぎる。
「で、調子はどうだ? 無理してないか?」
「大丈夫だよ。心配しないで」
双葉は顔を上げて言った。その声には少しの不安が隠れているように聞こえたが、俺はそれを追及するのをやめた。
「よし、じゃあ行こうか。寒いし、歩いてたほうが温まるだろ」
「うん!」
双葉の笑顔に少し安心しながら、俺たちは学校へ向かって歩き出した。
道中、ふと双葉が口を開いた。
「あのさ……やっぱり椎崎さんに聞いてみようと思う。今日、放課後でもいいかな?」
一瞬足が止まりそうになるが、平静を装いながら答える。
「……そうか。なら、お前の好きにすればいいよ。ただ、気をつけろよ」
「うん、ありがとう」
双葉の決意は固いようだった。俺は美咲に何も伝えないほうがいいのか、それとも一度話をしておくべきなのか。選択を間違えれば、双葉も美咲も傷つける結果になりかねない。
俺の心は再び重くなっていた。
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