第244話 明日の予定


美咲が届けてくれた鍋いっぱいのカレーを口に運ぶ。やっぱり、美咲の料理はすごい。もし俺が拒否しても、次の日まで美味しく食べられるように計算された料理だ。こんな状況でも全くぶれない姿勢には、つい感心してしまう。

「それにしても…普通にうまいんだよな。ほんと、あいつは…」

変わらず美味しいカレーだ。許せるはずがないのに、食べていると不思議と許したくなる気持ちが湧いてくる。だけど、今の美咲が何を考えているのか全くわからない。双葉以上に、今の美咲は掴みどころがない。自分で動いているように見えるけれど、それが余計に違和感を感じさせる。美咲にそこまでの決断力があるだろうか?

考えれば考えるほど、もしかしたら、俺の知らない「美咲を動かしている何か」が存在するんじゃないかという疑念が生まれてしまう。


そんな思考の中、突然電話が鳴った。画面を見ると双葉からだった。

「ごめん、こんな時間に」

思ったより落ち着いた声だ。あんなことがあったから心配していたが、少し安心する。

「別に、どうした?」

「明日なんだけどさ…途中の場所で合流して学校に行かない?」

双葉の提案は納得できるものだった。今日の件もあり、双葉は本物でないとはいえ、再び仮面の人物と向き合った。その恐怖がまだ消えないのだろう。


「どうせ明日金曜だし、無理せず休んでもいいと思うぞ」

俺としては無理をさせたくなかった。だが、双葉の答えは違った。

「多分、明日休んだら、もう学校に行けなくなる気がする。前もそうだったし…私、もう転校とかしたくないんだ。一年で二回なんて、いろんな人に迷惑かけちゃう」

双葉の声には過去の経験からくる恐怖がにじんでいた。また同じことを繰り返すのは避けたいのだろう。


「わかったよ。いいよ、明日一緒に行こう」

「ごめんね、こんな状況なのに頼っちゃって…」

双葉の声が少し震えているように聞こえた。俺たちの関係は複雑だが、こんなときに支えないでどうする。

「気にするな。お前が困ってるときくらい、俺は助ける。友達だろ」

「…りんくんさ、あの仮面の人、誰だと思う?」

突然の質問に息を呑んだ。


「俺がわかると思うか?」

「本物の正体はわからない。でも、りんくん、今日の人は知ってるんでしょ?」

双葉も気づいていたらしい。俺が誤魔化す隙はなさそうだ。

「本物じゃない?どういう意味だ?」

知らないふりをするしかない。だが双葉は淡々と続けた。

「なんとなくだけど…怖くなかったんだよね。私の記憶が間違ってなければ、あの人、本物じゃない気がする」

「本能的なものか…」

双葉の直感は鋭い。確かに、仮面の人物に対する記憶が濃いからこその感覚だろう。


「悪いが、俺にはわからん。そもそも、別人だってのも今初めて聞いた」

「そっか…。じゃあ、椎崎さんに聞いてみようかな。あの場所を見つけたのも、何か知ってて行ったんじゃないかって気がするし」

双葉も美咲の不自然な行動に気づいていた。あの状況で美咲が双葉を見つけるのは確かに変だった。


「やめておけ。余計なことをすれば、また今日みたいなことが起こるぞ。あいつには俺から聞いておく」

俺が止めるしかない。美咲に任せれば、双葉が危険な状況に陥るかもしれない。


「りんくん、ごめんね。怒ってもいいし、明日待ち合わせも無視してくれていいよ。でも、りんくんって椎崎さんのことになると熱くなるよね…。隠したいことがあるのはわかるけど、私、正直、椎崎さんに関してのりんくんの言葉は信用できない」

双葉の言葉は、俺にとって深く刺さった。美咲を助けたい一心で動いた結果、双葉に不信感を抱かせてしまっている。


「無自覚だった。悪い」

「無自覚で人を助けられるのがりんくんのいいところだよ。でも、だからこそ椎崎さんのことは任せたくない。もし彼女が悪くないなら、りんくんは隠すと思う。だから、私が直接聞く」

「…わかった」

何も言い返せなかった。これ以上止めようとすれば、俺への疑念が深まるだけだ。


「それで、明日はどこで待ち合わせる?」

「今日の路地の近くでいい?」

「了解した」

「ありがとう。ごめんね、わがまま言っちゃって…また明日」

「おう」


電話が切れた。俺はいったい、誰の味方をすればいいんだろう。

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