第30話 山でランニング

 山の方を歩き進めていく。琴音は俺らの一歩前を歩く。

「どこに向かうんですかね?」

「お前も知らないのか?」

「知りません。こんな山奥普通行かないでしょ」

 椎崎は体力に自信があるタイプでない。そこまできつい坂ではないが少しずつ息が上がってきているように思える。

「おい、琴音。のぼるのはやい」

「え。もう二人とも遅いよ」

 単純に気づいていなかったようだ。足を止めると走って下ってくる。俺らのもとにつくと同じペースで歩くようになった。

「悪いな」

「彼女のペースに合わたんでしょ。りんにいもちゃんと彼氏してるねー」

「だから付き合ってない」

 椎崎のペースに合わせていることについては認めるが、付き合ってるということにかんしては何がなんでも否定をする。

「私に気にしないで先に行っていいですよ」

 椎崎が優しさを見せた。

「そんなひどいことしませんよ。私が誘ったんですし」

 といいつスローペースにはものすごく耐えている。この二人相性は悪くない気がするがタイプが真逆なせいで合わせるのは大変そうだ。

「琴音。目的地はあとどれくらいだ?」

「もう少しのとこ。運動公園みたいなところあるらしい」 

 あと少しか。ならどっちかが気持ち切れる前にひとまず目的地にはつきたい。仕方ない。

「椎崎さん。前と後ろどちらが好きですか?」

「何がですか?…ひとまず後ろで」

 よし走りやすい。

 膝をつき両手を後ろに出す。

「え、なんですかこれ」

「走る」

「…はぁ」

 あ、椎崎さんがいつもの状態に戻りつつある。あきれられたかな。後ろ振り向きたくない。

「わかりました」

 いやいやなのだろうが、俺の背中に乗ってくる。予想以上に軽い。

「琴音。ペースは俺に合わせろ」

「了解」

 ジャンプをして体を揺らす。

「よーし準備OK!」

 スタンディングスタートの構えをとってくる。

「よしいくぞ」

 俺が走りだすのに合わせて琴音が後ろからおいかけてくる。

「あの早いです」

「我慢しろ!」

 全力で昇っていく。

「うぉー。体力は落ちてないようだね。なら」

 後ろからものすごい圧を感じる。その圧はだんだんと俺の真横を通っていく。

「先行ってるよ!!」

 そして俺を追い抜く。加速は止まらない。

「追いかけてください。あなた。私を背負って敗北を見せるのですか?」 

 ここで負けず嫌いが発動か。

「振り落とされるなよ!」

 琴音を追いかけるようにペースを上げる。両手は椎崎を落とさないようにするのに全力を注いでいるため、もし足を滑らせたりしたら顔面から落ちる。

「やるね!」

 琴音のテンションは次第に上がっていってる。やはり動いているときが一番テンションんが高い。

「頑張ってください!」

「おう!」

 俺も普段には出てこないほどテンションが高まっている。体動かすのも悪くないな。

 だが妹の背中は遠かった。どんなにペースを上げても差は縮まらない。確実に勝てない状況。だが、背中の少女は許してくれない。ペースを落とすと背中をつねってくる。

「おーい!」

 上の方で声が聞こえる。琴音が手を振っている。ようやくゴールのようだ。

「あー!ついた!」

「遅かったね二人とも」

「私は何もしてません。全部倫太郎君が遅いのが悪いです」

「悪かったな」

 疲れはひどいが思ったより息は上がっていない。

「よし遊びますか!」

 まだこれ移動でしたね。琴音からしたら準備運動なもんか。今日は体がぶっ壊れる日になるのだろうな。

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