第105話 辛い日は目をつむる
「りんくんじゃーね」
「おう」
いつも通り双葉と帰りいまからアパートに向かうところ。少し急ぎ足になっている。早く美咲にあいたいその一心だ。
寮の目の前。カギは・・・あいている。つまり美咲が俺の部屋にいる。
「ただいま」
靴もある。これで美咲がいることが確定した。少し安心している。1人で押しつぶされるようなことはなさそうだ。
「おかえりなさい」
料理の仕込みをしているようだ。昨日までにくらい感じがしない。待っている間にふっきれていたのだろうか。
「今日はカレーにしますね」
「ありがとう。ところでお前さ無理してないか」
つい口を滑らせてしまった。本人が気にしていなかったらひどいことをしている。
「何の話ですか?」
「してないならべつにいい」
深くはきけない。本人が大丈夫そうだしいったん様子をみることにしよう。
「そういえば倫太郎君がまた悪い噂聞こえました。今度は何をしたんですか?」
「いつも通り何もしていない」
いつも通りの美咲。そんなあいつが自分のせいでまた悪く言われている。それを気にしないわけがない。どんな理由があるか本当に知らないだけなのか。だとしたら…。
「はやくみんなが倫太郎君のよさを気づけばいいんですけどね」
「そうだな」
いつも通り過ぎる。俺の意識のしすぎなのか。
そこからもミスなく料理を進めていく美咲。ひとまず俺に気を遣わせないために装っているだけかもしれんが大きな影響はなさそうだ。
「できました。食べてください」
今目の前にあるカレーに俺は驚いている。軽く見る程度でも感じるこれは絶対にからい。いつも以上に。
「食べないんですか?」
「いただきます」
罰ゲームかこれ。俺への嫌がらせなのか。
一口いれる。
「めっちゃから!」
思っていた以上の辛さだ。口がものすごく痛い。こんな辛いの美咲が作ったのかよ。
目の前を見ると美咲はそんな辛いカレーを一気に口に入れる。いつもの上品さはなく流し込んでいるようだ。
「辛いですね」
手が止まると汗が流れ出す。辛さからか涙が流れてきている。
「そんな無理しなくていいだろ。チーズ持ってくる」
乳製品があれば多少は辛みがなくなるだろう。
「いらないです。ちゃんと全部食べます」
そういいながらも美咲の手は震えている。
「美咲さ。触れな…」
納得してしまった。美咲はこのカレーは予定通り作っている。
目の前に見えるバッグにはくしゃくしゃになった紙が入っている。美咲がこんな紙をきたなくするわけがない。そして目の前にいる彼女は号泣している。これが辛いからというだけの理由なわけがない。
「食べっか」
カレーを作り終えるまでは我慢したのだろう。だから俺は黙って食べる。目の前で泣いているのは辛いものを食べたからだと思ってやる。そしてもっと彼女を支えれる存在になろうと心に誓った。
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