第32話 つり橋をゆっくりわたる

「あの本当に大丈夫なんですよね」

 アスレチックの中に入り命綱などをつけている。思っていたよりも装備しっかりしていることもあり椎崎はさらに怖くなってきているようだ。

「大丈夫ですよ。安全のための装備なんですから」

 琴音のほうは近づくにつれてテンションをさらに上げている。

「私やっぱりけんが」

「ほらいきますよ!」

 ベルトを外そうとする椎崎を阻止し引っ張て行く。

「あ、っちょ」

 心の準備を作る間もなく階段をのぼる。今の琴音には鬼という言葉がよく似合う。

 最初は吊り橋渡り。下にネットもはってあるし落ちる心配はほとんどない。とはいえ、

「あの足が届かないです」

 慎重に足をいたにおく。二つ目のいたに足を延ばすが足が伸び切らず届いていない。

「もっと力抜いてください。大丈夫ですから」

 目をつむり足を延ばす。板に足が乗った。しかしちゃんと足がのらずすべらせる。

「あ!」

「っと」

 背中に手をあて倒れる前に止めることができた。

「あ、ありがとうございます」

「やるねぇ」

「おさえててやるから」

 背中に軽く手をそえて軽く押す。歩くたびに震えているのを感じ取れるがこれならつり橋は渡れるだろう。

「あのもう少ししっかり押さえてくれると助かります」

 それでも一度のミスは椎崎の一歩を止めさせるのだろう。押すのやめれば進もうとしなくなる。

「前からは私がささえますので。りん兄は絶対助けてくれるので少しづついきましょう」

「ありがとう」

 両手を握り後ろ歩きで進んでいく。琴音にリードされることでだんだんと歩くペースも上がっていく。

「いい感じです!」

 そして一分もかからない程度のつり橋を10分弱で渡りきりことができた。

「ゴールまでいけましたね!」

「うん二人のおかげありがとう」

 それと同時に疲れがのしかかってくる。ずっと緊張感をもって歩いていたから無理もないか。

「よしつぎいきますか!」

「ごめん。少し休ませて」

 座り込む。椎崎にとってこの挑戦は結構リスクがあるのかもしれない。こればっかりは俺も琴音もわからない領域だ。

「そっか。りんにいごめん。私先にいく。やめるようなら下でまってて」

 さっきまでの元気とは裏腹に落ち込んだ様子をみせる。

「わかった後で追いつく」

 琴音が何を考えているのかは理解できる。今は先に行かせた方がいいと思った。

「うん。椎崎さん。ごめんなさい」

「謝るのはこっちのほうだよ。必ず追いつくから」

「うん待ってる」

 先に進んでいく琴音。その背中はすぐに遠くに行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る