第33話 暗く遠い琴音の壁

 椎崎の苦手な高いところで行われたアスレチック。つり橋を少しづつ進んでいきようやくクリアできた。しかし、その一つだけで椎崎は恐怖との戦いから解放された力が抜けて倒れこむ。

 琴音は気を使い俺ら二人を残して先に進んでいった。

「あの琴音さんに嫌われましたよね。さっき名前呼び出なく苗字で呼んでましたし」

 落ち込んだ様子の椎崎。出会ってすぐ「美咲さん」と呼んでいたが、別れるときは苗字で呼んでいた。

「お前は悪くない。伝わりづらいだろうが気遣いだ」

「気遣い?」

「いろいろあって人との距離感がわからなくなってるんだ。不器用っていようかさ。嫌われないようにしてるんだわ」

 それが正しいかは俺にもわからない。正直琴音のことは助けてられない。

「それと何が関係あるんですか」

 琴音はきっと椎崎が自分のことを嫌いになってきていると感じているのだろう。相手にされない。そのことが何よりもつらいことなのだろう。

「さっき無理にひっぱたらどう思った?」

「倫太郎君に似て協調性がないと思いますよ」

 俺にも攻撃をしかけてくる。二人の時は俺への気遣いは完全になくなるんだな。

「なら逆に帰ろうといいだしたら?」

「倫太郎君に似て気の使い方が下手だと思いますけど」

 あれ、琴音のことを話してるだけだけど俺に攻撃するための返答になっていないか。まぁいいか。

「今の状況はどうだ?」

「一番の最善ですよね。体を動かせない人はおいていく。当然でしょ」

 おそらく椎崎の言いたいことは少し違う。こいつは弱いものを見捨てて進むことを当たり前いいたいのだろう。

「実際お前がどうしたいか知らないからな。やめたいなら戻ればいいし、続けるなら先で待ってる」

 ある意味選択する権利を放棄し椎崎にゆだねた。これならどっちの選択にしても自分の責任ではないから。

「つまり責任転嫁ってことですか。優れてるあの子が弱者に気を使うことは理解できませんが」

 椎崎が理解することは難しいだろう。利用できるものは利用する強者とは全く持って違うから。

「なら行きますか」

 まだ回復できていない状態で立ち上がろうとする。足にも震えが残る。まだ高所への恐怖はやわらいでいないようだ。

「もう少し休めよ」

「そうしたら追いつけなくなるので」

 追いつく気でいるようだ。琴音のことだから追いつけない先まではいかないだろうから頑張れば間に合うか。

「お前がそれでいいなら行くか」

「はい。お願いします」

 椎崎の秘めた情熱をどこか感じ取れた。プライドなのかそれとも…

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