第233話 二人の仲

倫太郎が店を出てから、店内に残ったのは双葉と狐川の二人だけだった。テーブルには倫太郎が置いていった勘定の分のお金がそのままになっている。双葉はじっとそれを見つめていた。


狐川は静かにため息をつくと、椅子を引いて双葉の正面に腰を下ろした。


「あおあお、あんたさ、黙ってたら何も始まらないよ」

狐川の声には呆れと少しの苛立ちが混じっていた。


双葉は俯いたまま、小さな声で答えた。

「……私、どうしたらいいのかわからないの。りんくんが、私と一緒にいることで迷惑じゃないかって、そればっかり考えちゃう」


その言葉を聞いて、狐川は机の上に肘をつきながら双葉をじっと見つめた。双葉の肩は小さく震えている。


「ほんと、あんたってさ、自分のことばっかり責めるよね。いい? 倫太郎君が迷惑だなんて一言でも言った? 言ってないでしょ?」

狐川の言葉に、双葉はゆっくりと首を横に振った。


「だったら、なんでそうやって勝手に決めつけるの? 倫太郎君の気持ちも考えずに、自分だけで答えを出そうとしてる。それってさ、逆に倫太郎君に対して失礼だと思わない?」


双葉は目を伏せたまま何も言わなかった。狐川の言葉が胸に突き刺さるように響いている。


「それにさ、あおあお」

狐川は少し柔らかい声に変えて続けた。

「あんたが自分のせいだとか迷惑だとか思い込んでるのは、きっと今までの環境のせいだよね。人間関係がさいろいろあったんでしょ?」


双葉はその言葉に少しだけ顔を上げた。狐川の視線は真剣だった。


「私はね、あおあおのこと、ちゃんと見てきたつもりだよ。あんたが人一倍、周りに気を使って生きてきたのも知ってる。でもさ、それで自分の気持ちを全部抑え込んでたら、いつか壊れちゃうよ」


双葉は唇を噛み締め、声を震わせながら答えた。

「……でも、私なんかがりんくんと一緒にいていいのかなって……怖いの。もしまた、誰かを傷つけるようなことになったらって思うと……」


狐川は大きく息を吐き出し、テーブルを軽く叩いた。

「もう、それ考えるのやめなよ! 倫太郎君だって、ちゃんとわかってるよ。あんたが悩んでることも、怖がってることも。それでも一緒にいたいって言ってるんじゃん」


双葉は驚いたように狐川を見た。その瞳には少しだけ涙が浮かんでいた。


「だからさ、もっと自分の気持ちを信じてみなよ。倫太郎君を信じて、自分のことも少しは許してあげなよ。それができるのはあんただけなんだから」


狐川の言葉に、双葉はゆっくりと頷いた。


しばらくの沈黙の後、狐川が立ち上がり、テーブルの上の片付けを始めた。

「さ、今日はうちに泊まるんでしょ? 帰る準備しようよ」


双葉は目を擦りながら、小さな声で返事をした。

「……ありがとう、美紀」


狐川は笑顔を見せながら軽く手を振った。

「気にしないで。でもね、次はちゃんと倫太郎君と話しなよ。あんたも、倫太郎君も、もっと楽になれると思うから」


双葉は狐川の背中を見つめながら、心の中で少しずつ、倫太郎と向き合う覚悟を決めつつあった。


その日の夜、狐川の家で二人は遅くまで話し込んだ。そして双葉は、自分の中にある迷いと少しずつ向き合い始めた。

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