第269話 双葉の今日は驚きばかり

 朝を迎えた。ほとんど眠れないまま、学校へ行かなければならないという現実が重くのしかかる。


 一昨日は双葉と美咲、昨日は薫さん。立て続けに濃密な時間を過ごしたせいで、頭の中は整理しきれず、それを考えすぎたせいで結局まともに眠れなかった。結論も出ないまま、ただ時間だけが過ぎてしまったことが余計に気になり、夜も浅い眠りを繰り返すばかりだった。


 そんな状態で迎えた朝。いつもより少し遅い時間に部屋を出た。さすがに少し急がないとまずいな。


「おはようございます」


 ちょうどそのタイミングで、隣の部屋から美咲が出てきた。


「いつもより遅いな。どうした?」


「えっ!!」


 俺の言葉に、美咲は驚き、慌ててスマホを取り出し時間を確認する。


「ほんとですね……少し寝すぎてしまったようです。急がないと」


 美咲は焦りながら走り出そうとするが、俺はすぐに制止する。


「待て待て待て!お前、体力持つのか?」


「でも、遅刻は……」


 俺も正直、眠すぎて意識がぼんやりしている。でも、美咲を守らないといけない。


 それは単なる安全という意味だけではなく、美咲の“ブランド”を守るという意味でもだ。彼女は周囲の目を気にしなければならない存在。疲れ切った姿を晒すのは、彼女にとって大きなダメージになるかもしれない。


 なら、俺にできることは一つ。


「近くまでおぶっていく。なるべく人目に触れないルートを使えば問題ないだろ」


 俺が走ることで美咲の体力を温存し、人の多いエリアに入る直前で彼女を降ろせば、周囲に気づかれることなく遅刻も防げる。


「……本当なら、こういう行為は遠慮したいところですが……」


 美咲は少し渋い顔をしながらも、状況を考えて素直に受け入れる決断をしたようだ。


「体力を考えれば、それしか間に合う方法はなさそうですね。申し訳ありませんが、お願いします」


 ──さすがの美咲も、こういうときは素直になるんだな。


 たぶん、彼女の中で俺に対するプライドよりも、外に見せるプライドを優先したんだろう。


「なら、急ぐぞ。とりあえず頭にタオルをかぶせておけ」


 最低限、美咲の正体がバレないようにする。


ダッシュ開始

 俺は美咲を背負い、立ち上がった。


「よし、行くぞ」


 そう言って、駆け出す。


「あ、あの、遠回りじゃ……?」


「いつものルートだと目立つだろ。だから遠回りする」


 顔を隠したとしても、誰かが見ればすぐに噂は広まる。そして、美咲だと気づくやつは必ず出てくる。


 だから、人の少ない道を選ぶ。


 この選択が正解だったのかはわからないが、今はただ、美咲を遅刻させないことが最優先だ。








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