第242話 自分のためには利用する

美咲に教えてもらった場所に向かって走った。大和たちに詳細を伝える余裕はなかったため、「居場所を見つけた」とだけメッセージを残し、詳細は後で伝えることにした。

最後に聞こえた双葉の悲鳴が頭をよぎり、嫌な予感が募る。とにかく急がなければ。


指定された場所が近づくと、美咲が一人で立っていた。

「結構早かったですね。こちらです」

彼女は俺に説明する間も与えず歩き出す。その冷静さが逆に不気味だった。

「まだやってますね」

美咲が指差した先に目を向けた俺は、驚きで息を呑んだ。そこには座り込んで怯える双葉と、狐の仮面をつけた人物が立っていた。仮面の人物は双葉を見下ろしながら、何かを追及しているように見える。

「私は知らない。何もわからない。あの日だって……」

双葉は震えながら繰り返していた。


「やめろ!」

俺は反射的に声を上げ、仮面の人物に向かって駆け寄った。だが、仮面の人物は俺に気づくと、すぐさまその場から姿を消してしまった。


「倫君……それと椎崎さん。なんで一緒にいるの?」

双葉は涙をこらえながら、驚いた様子で俺たちを見上げる。

「あなたが絡まれているのを見たので倫太郎君に連絡しました」と美咲が説明した。

すでに近くにいたと知られると余計な誤解を招くと考えたのか、彼女は話を少しごまかしているようだ。


「急な連絡だったから焦った。いったい何があったんだ?」

「なんでもないよ。ただ、大和君に改めて『絡むな』って言われただけ。手が出る前にあの人が助けてくれたから……」

双葉は言葉を濁しつつも、何とか状況を説明しようとしている。しかしその震える声と目の動きから、彼女が相当怖い思いをしたことが伝わってきた。


「何か聞かれたりしたのか?」

「……何も。ただ睨まれただけだから」

だが、「知らない」と言いつつ、明らかに何かを隠しているようだった。


「とにかく、家まで送るぞ」

「大丈夫だから。ありがとう。それじゃ!」

双葉は俺の申し出を断り、その場を去ろうとした。まるで俺からも逃げるように走り去っていく。


彼女を見送りながら、俺は美咲に視線を向けた。

「なんであの場にいた?」

「勘違いしないでください。本当にたまたまです。でも、事態を見て、少し手を加えたんです」

美咲の言葉は、偶然を利用して自分の計画を進めたと言っているように聞こえた。


「狐の仮面のやつ、あれはお前の差し金か?」

「もちろん。本物ではありませんよ」

「何のためにこんなことを?」

「犯人をあぶり出すためです」


信じられない話だった。彼女は、双葉を囮にして事件を解決しようとしていたのだ。

「双葉を利用したってことか?」

「彼女は適任ですからね。前の学校でもあまりいい人間関係を築けていなかったらしいので。あの弱々しい感じはちょうどよかったんです」

美咲は冷たく言い放った。


怒りが込み上げ、俺は彼女を壁際に押し付けてしまった。

「たったそれだけの理由で双葉を傷つけたっていうのか!」

「私も実害を受けているんです。最善を尽くすのは当然でしょう?」

彼女の言葉には感情がない。ただ冷酷で計算された態度に、俺はさらに腹が立った。


「お前の取り巻きでも使えばいいだろ!」

「それではリアリティがありません。それに、怖い思いをした人を慰めるなんてこと、私には無理ですから」


怒りを抑えきれない俺を前にしても、美咲は冷静さを崩さなかった。彼女はすでに次の手も用意していると言う。

「これを見過ごせというのか?」

「ええ。見過ごせば、普通の学校生活が送れます。それに、進展があればちゃんとあなたにも共有しますから、安心してください」


それが美咲のやり方だというのなら、俺にできることは何なのか。怒りを押し殺し、ただ拳を握り締めるしかなかった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る