第26話 2人の関係
ゲームセンターを後にした俺たちは、静かな街並みを歩きながら家路に向かっていた。
「そういえば、お前ってどこに住んでるんだ? 遠いなら送ってやるぞ」
俺がふとそう聞くと、双葉は少し笑って答える。
「初めて会った場所から歩いて5分くらいのところだから、全然大丈夫だよ。ほんと途中まで同じ道で助かったよ。朝、遅刻しかけたときもね」
あの場所から5分ってことは、俺のアパートの近くなのかもしれないな。興味がないわけじゃないが、わざわざ深く突っ込むほどでもない。
「でもさ、いきなりあの日、声をかけてくるとは思わなかったよ。正直、驚いた」
「だって、遅刻しそうだったし! ほんとに感謝してるんだから!」
双葉は少し照れくさそうに笑いながら言った。
「いや、そこまで大したことでもないだろ」
「むー、りんくんって鈍感だよね」
そう言って彼女は、頬を少し膨らませながら俺を見上げる。その仕草が妙に子供っぽくて、少しだけ笑いそうになるのを堪えた。
「なんでそんなに自分を卑下するの? りんくんはいい人だよ。みんな噂してるのも、私は“誰かのためにしたこと”だって思うんだ。りんくんが自分から隠してるのは謎だけどね。でもさ、もっと自分のことを評価してもいいと思うよ。あ、でも最近はその噂も薄れてきてるから安心かな」
彼女の言葉に、俺は少し言い返す気になった。
「お前さ、自分の能力をしっかり把握しろよ。転校生がいきなり周りから排除される選択肢を取るなんて、普通はあり得ないぞ」
双葉の強みは、たぶんこの純粋で自然なコミュニケーション能力なんだろう。椎崎のような計算されたやり取りとは違って、双葉の言葉は妙にストレートで、人を引き寄せる力がある。
「だから最近、頑張ってるんだよ。みんなともっといい関係を築きたいし」
双葉の表情には、少しの決意と希望が混じっていた。
「だったら、俺と一緒に行動するのを少し控えてみるか。俺がいるせいで声をかけづらそうにしてるやつらもいるしな」
「えー、でもりんくんと話す時間が減るのは嫌だなあ。でも、まぁ……りんくんがいないときはそうしてみるよ」
双葉は笑顔を浮かべながら答えた。その姿に、少しは意識の変化があったのだと気づく。少しずつでも、彼女が前に進んでいけるなら、それでいいんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます