第131話 進む恐怖

 廊下の突き当たりにある一室に入ると、空気が一気に重くなり、まるで何かがそこに存在しているかのような圧力が感じられる。その部屋には、何もないはずの天井から古びたシャンデリアが不気味に揺れ、影が壁に怪しく踊る。突然、窓が激しく音を立てて閉じ、部屋の中の気温が急激に下がる。吐く息が白くなり、目の前の何かが確実に近づいてくる気配がする。

「りんくん誰かくるよ」

 小さな声で囁く双葉。ものすごく楽しんでいそうだ。こっちものすごく怖くてすぐにでも帰りたいというのに。

「お前もう1人でいいだろ」

「1人じゃ楽しくないじゃん!」

 絶対1人でも双葉楽しめる。1人で勝手に世界観に浸っているから。

 「何か」が、自分のすぐ背後に立っているのを感じた。この光景2度目なのだが。流石に同じパターンで驚くわけないだろ。

 しかし後ろを振り返ると誰もいない。

「あれ、どこいったかな?」

 双葉も戸惑いを見せる。間の鋭い双葉なら気づくと思っていたがここのお化け屋敷のレベルの高さが窺える。

「そろそろ次行くぞ」

 今すぐにでもここから離れたいという気持ちが強い。

「そうだね」

 さっきの後ろの気配は何もわからなかったが俺たちは進むことにした。

 薄暗い廊下を進むと、壁には不規則に何かが彫り込まれており、それはまるで血で書かれたかのように赤黒く滲んでいる。

「りんくんちょっと怖くない?」

 急に双葉の声が震えていた。

「この血程度」

「すごくリアルじゃんちょっと目つぶるから血が見えなくなったら教えて」

 どうやら双葉にも弱点があったようだ。血が苦手ってわけか。

 血のような部分はそこまで広くなく少し進んだらすぐになくなった。

「終わった」

「ほんと?」

「まじだ」

 少しずつ目を開く。そして爽やかな顔をするお化け屋敷で…。

 そして絵画はその目でじっとこちらを見つめており、その視線がまるで生きているかのように感じられる。

「この絵は角度によってこっちに向いているように見えるやつだね。こんな仕掛けもするなんてすごい」

 一つ一つの仕掛けのクオリティの高さに俺すらも驚いている。双葉がいなければ怖いだけで終わったはずなのにこいつの恐怖を楽しむ姿を見るとこっちも恐怖を忘れることがある。


 先に進むと次への扉を見つける。開けると中にはぼろぼろの家具が散らばっている。

 ガサガサというあと共にその家具がうきはじめる。

「うわ!」

「何怖がってるの?ただの仕掛けじゃん」

 一気に冷めてしまう。よく見れば糸がみえる。

「あのさ。別にいいんだけど楽しみ奪いすぎだろ」

「そうだった?ごめん。怖いの嫌いみたいだったからさ…」

 帰らせないための考慮だったかのか。こいつもこいつで俺がいなくならないために努力をしているようだ。

「最後まで付き合うからあんま気にすんな」

「ありがとう。後半分頑張ろうね!」

 まだ半分なのかよ。俺のメンタルは持つのだろうか。

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