第130話 館が始まる

 

 館のか何入ると世界が変わった。夜に包まれ時間から切り離されたかのように静まり返った。

「世界観はいいね!」

 唯一の光は双葉だけだ。彼女の高いテンションはこの暗闇に光を照らすかのように安心できる。

「早く行くぞ」

 黒ずんだ鉄の扉。開くたびに錆びた蝶番が悲鳴を上げ、奥からは冷たい空気が流れ出す。ひとつひとつの作りの細かさがわかる。

「ここ開けたら出てくるのかな?」

 もう帰りたい。ここで脅かされたら普通に悲鳴を上げる気がする。


 一方通行で助かった。ここまで暗いと迷うか双葉と逸れてしまう気がする。

風で窓が揺れる音が聞こえる。

「帰っていいか?」

 本当は窓はあっても風が入るような場所ではない。それなのに本当に風が窓を打つ音が聞こえる。細かく作りが多いというだけでここには強い恐怖を感じてしまう。

「まだ早いから!」

 引こうとしている俺の腕を引っ張ってくる。

「ここはまだ序の口だよ。怖いのは多分ここから」

 俺にとってはもうクライマックスなのだが。そう思った矢先足音が聞こえてきた。後ろの方から。振り返ってもその姿はない。

「なるほどねー。音で恐怖を感じせるやつね」

「どういうことだよ」

「よーく聞いてみて」

 目を閉じ耳をすませてみる。すると床でなく天井から音が聞こえた。

「なるほど」

 双葉はお化け屋敷ハンターだな。そうやってタネを見つけることも楽しんでいる。

 足音を聞きながら歩き進める3人。双葉のおかげで怖さは軽減された。

「そうだ上野くん。…は逃げたんだったね」

 逃げた?そういえば上野は館に入る前に逃げられたんだったな。ということは待てよ。今三人で歩いているだろ。三人目って誰だ?

 再度後ろに振り返る。何か人影を感じる。

「うわ!!」

「なに!」

 双葉も俺の声を聞いて振り返った。すると少し後ろで俺と双葉の間に白い顔で額から赤い液体が流れている女性に見える人がたっていた。

「す、すごーい!!全然気づかなかった」

 双葉は驚いているが怖いからじゃない。テンション上げて賞賛している。

「りんくんレベル高い!!すごいテンション上がってきたー!!」

 双葉は完全なるお化け屋敷キラーになっている。普通なら怖がって楽しむはずが演出や作りを見るのを楽しんでいる。

 俺は幽霊役の人に謝罪の意をもって一礼をしてから先に進んだ。

「りんくんすごく楽しいね!」

「お前は別の意味だろ」

 こんな双葉となら俺も最後まで乗り越えられるかもな。まだまだ先はあるが何があっても双葉から離れないようにしないと。

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