第152話 琴音は覚悟を決める

 家まで歩き進めている。俺はあることに気づいた。今日の琴音はどこかおしゃれだ。

「お前がブーツとはな。走りづらいだろ」

 動きやすさを最優先にするのがいつもの琴音だ。だが今日は違う。動きやすさをすべてなくしておしゃれだ。何より運動靴でない琴音をみるのは久しぶりだ。だからなのかどこか歩きづらそうにしている。

「いいでしょ別に」

「デリカシーありませんね」

 美咲に罵倒されひかれてしまった。

「悪かったな」

 こうやってしっかりとしたファッションで動くことを縛るとここまでかわいらしく思えるのか。妹ながら自慢したくなる。

「でも、まぁお兄ちゃんにこういうの中学上がってからは見せてないから仕方ないか。でも、こうしないと走りたくなるから…」

 見栄えでなく走ることを制限するためか。そこは琴音らしい。どこか安心する。本当に俺と同じ学校に行きたいという強い気持ちが伝わってくるz。

「美咲さん早速帰ったらお願いします」

「今日はしません。明日からです。ちなみに夜はどちらでお泊りしますか?一応私の部屋でもかまいませんが」

「お願いします!!」

 あっさりと美咲にお願いをした。お兄ちゃんは悲しくなる。嫌われているわけでないと信じたいが。

「迷惑かけるなよ」

「わかってるって」


 そしてアパートに到着した。

「いったん部屋に戻りますね。夜は鍋にでもしますか。後ほど伺います」

 部屋の前で美咲と別れた。

「久しぶりのお兄ちゃんの部屋だ!!」

「何も変わってないからな」

「お兄ちゃんこれあげる」

 部屋に入って早々リュックから袋を渡してきた。

「なにこれ」

「中見ていいよ。私の覚悟だから。何があっても私にそれを渡さないでね」

 袋を開け中をみた。そこには冬用の運動着とシューズが入っていた。

「本気か?」

「今回は体を動かさない。息抜きは部屋でする。外に出たらしばらく戻ってこないだろうし。美咲さんと違ってお兄ちゃんなら私の甘えにも動じないでしょ。お願いだから絶対私が要求しても渡さないでね」

 これが勉強に対する覚悟か。自分から走ることをなくすことで一点に集中させる。琴音らしい精神論だ。だが、何か引っかかってしまう。

「なんでわざわざ持ってきたんだ?」

 普通なら家に置ていくればいい。そうすれば必然的にブーツで走る以外の選択肢がなくなる。

「…いいでしょ。願掛けみたいなもの。私にとってはさ」

 暗い雰囲気がある。こんな琴音は初めて見るな。

「無理しすぎるなよ」

 ここまで覚悟を持ってるなら変に深追いはやめておこう。美咲が学力を伸ばすのならそのかんは俺は琴音の心のささえになろう。

「ありがとうお兄ちゃん」

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