第153話 鍋が始まる

 テーブルの中央には、大きな土鍋が湯気を立てながら鎮座しており、中にはたっぷりの野菜、豆腐、肉団子がぐつぐつと煮えたぎっている。 

「もう食べていい?」

 いい匂いがただよい興奮を抑えられない琴音は箸をもち今にも食べ始めようとしている。

「もう少し待ってください」

 美咲はそれを止める。彼女の目は鍋に向けられている。鍋であっても料理の手を抜かない。これは期待できるな。

「わかりました。待ちます」

 しかし箸を置くことはなく何があっても食べようとしているな。

「落ち着けって。飯は逃げないから」

「お兄ちゃんには絶対渡さないから。勝負だよ」

 ここでも勝負といいだした。まずは肉の確保だけはしなくては。琴音が勝負ということは肉争奪戦になる。美咲はそれに介入するのは難しいだろう。だから俺は2人分確保しないといけない。これは頑張らないと。


「できました。どうぜ食べてください」

 鍋蓋を開いた。一気に鶏ガラの美味しい匂いが部屋を包む。

「いただきます」

 だがこの匂いに浸っている余裕はない。琴音はすでに肉に手を伸ばしている。

 

 俺と琴音が肉に箸を入れる。琴音はひとつだけでなく何個もさらによそう。俺も負けずに倍のペースで入れていく。

「やるねおにいちゃん」

「当たり前」

 鍋にはもう肉がなくなった。

「お二人早いですね」

 美咲は俺らのスピードについてこれずただ驚いているだけだった。そのためなにもよそえていない。頑張って正解だったな。

「ほらよ」

 美咲の皿に肉を半分入れる。

「いいんですか?」

「そのために琴音に負けずとっあだけだ」

「ありがとうございます」

 美咲は笑顔を見せた。

「お二人さん仲良いですね」

 その光景を見て琴音がニヤニヤしている。

「別にいつものことですから」

 美咲は特に否定をしない。満更でもなさそうだ。おそらく琴音の考えていることをわかっていないな。

「琴音。美咲はいろいろと抜けてるとこあるからあまりそういうことはするな」

「どういう意味ですか?」

 美咲が詰め寄ってくる。

「なるほど。これはただのコミュニケーションってことか。仲良くなってるじゃん」

 胸に矢が刺さる。これはあくまで美咲の演技だ。今の俺らの関係は真逆。琴音がそれに気づいてないのなら美咲の演技と観察力はやはりすごいな。

「明日。手抜きませんから」

 さすがの美咲も年下にあおられて少し怒ったようだな。

「あ、ごめんなさい」

 琴音も美咲の言葉をしっかり理解した。明日優しさがなくなる可能性があることを。

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