第154話 野菜
食べ勧めていた俺たちはだんだんと完食に近づきだした。この食事のおかげで美咲は琴音のことを掴んだようで次第に話も盛り上がっていった。
だが、俺には指摘をする必要なことがある。
「おい野菜も食べろ」
肉は最初になくなり、時間と共に豆腐などもなくなっていった。野菜だけが残っている。琴音は明らかに野菜に手をつけていない。嫌いなのは知っていたがほとんど食べてなかったのだ。
「野菜なんて美味しくないもん。お兄ちゃんと美咲さんが食べてるんだからいいじゃん」
「お野菜も美味しいですよ。少し食べてください」
「嫌いなもの食べたってエネルギーにならないじゃん!今日は明日に向けてエネルギー補給したいからさ」
琴音は自分の好きなものがエネルギーになるものだと思っているのか。野菜は嫌いなため食べても意味がないと。
「…よくわかりませんが仕方ありません。雑炊でも作りますか」
美咲はすぐに諦めた。
「ほんと!!ありがとうございます!」
野菜が回避できたと思った琴音はよろこぶ。
「一度キッチンにもっていきますね。倫太郎君。手伝ってくれると助かります」
「わかった」
美咲の指示通り鍋をもってキッチンにむかった。
「いいのか?」
「誰も抜くとは言ってませんから。よそって食べさせます」
「なるほどな」
自分から取りにいかないのなら無理やりに食べさせる。さすがだな。
「それであいつが食べるとも思えないけどな。普通にどけて食べるぞ」
「…?私が許すとでも?」
真顔になった美咲から怒っていることが伝わってくる。絶対的に料理に自信があるからこそ、残そうとした行動には怒っているようだ。そして、この感じ。いくら琴音でも野菜を食べざるおえないだろうな。
鍋にご飯入れ火をかけふたを閉じた。
「で、どうだ?」
「手はかかると思いますが大丈夫でしょう。懸念があるとすれば勉強に集中できるかですね」
「集中力はないが覚悟はあるみたいだから大丈夫だとおもうぞ」
あいつが自分から運動を封じている。その覚悟だけでもなんとか乗り越えると思う。
「何をしたんですか?」
「シューズと運動着を俺に預けてきた。走るのが生きがいだった琴音が走ることを封じたんだよ」
「なるほど。兄がそういうくらいでしたら少し安心しました。こちらはお任せください。用意はしてますので」
その言葉は俺を安心させる。少しは信頼されているようだ。そして美咲が準備を整えているなら琴音がちゃんとやればクリアだ。
味を加えて雑炊が完成した。今度は鍋からそれぞれのどんぶりに移していった。
「え、野菜」
「食べてくださいね。第一試練ですので」
琴音への最初の試練が一番難しい野菜を食べるとは。やはり美咲は鬼だな。
「いただきます」
手を震わせながらスプーンで野菜ののったご飯をすくう。口の前でためらいをみせる。そして一回深呼吸をして目をつむる。
「これはご飯。これはご飯」
口をあけスプーンを中に入れた。
「!!おいしい」
驚きとともに笑顔になる。
「美咲さんすごくおいしいです!!」
「それはよかったです」
美咲も笑顔をみせる。
「美咲さんすごいですよ。私が野菜食べて拒否反応でないんですよ。なんでもできるんですね!ほんと…すごいです!!」
琴音が美咲をほめることを止めない。最初はすごくうれしそうにしていた美咲だが次第に困惑をし始める。
「も、もういいので早く食べてください」
「わかりました」
野菜の有無かかわらず食べるスピードが上がっていく。たしかに美咲の料理はすごいがこれは革命的だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます