第117話 椎崎美咲を取り戻す①

 椎崎美咲は薫さん含む椎崎家の落ちこぼれだった。そのせいで自由に生きることができず常に縛られて生きていた。

 俺が初めて美咲に会った日は驚きの連鎖だった。誰もが好む存在。俺からしたら一生届かない存在だった。だが椎崎美咲は一番近い存在だった。俺の隣の部屋に住んでいるのが椎崎美咲だった。椎崎は驚きもせずすれ違い際に俺を見下していた。今思えばあの時も感情が不安定だったのだろう。それで見下すのは理解できないけど。

 

 学校とは違う美咲は俺にとっては魅力に変わっていった。部屋に行けば表情を見せずまるでロボットのようで。学校の立場では俺が不利であるから力を抜くことができるそういっていたな。表情が見え始めたのは出掛けてからか。男女のペアでしか手に入らないというのを理由に遊園地に連れていかれた。

 遊園地では椎崎の本当の姿を見ることができた。絶叫が苦手。幽霊が苦手というものすごくか弱い少女。学校で見せる何にも恐れない美咲は遊園地ではむじゃきでかわいらしかった。さらに椎崎美咲の魅力を気づき始めた日だったな。

 さらに運動不足という思ったより低スペックのポンコツキャラだった。それをわかったのは琴音の登場だったな。全国レベルであるくせにライバルはいなくなったことで陸上から離れた。運動神経は変わらず化け物であった。相変わらずのハイペース。美咲が運動神経がないことに気づいてスタートでいきなり限界を迎えていた。美咲を支えながら進んでいくのは正直大変だった。変化があったとしたらあの日もそうだったな。あいつは怖くて渡れなかったのに俺が指示したとおりに進んだことがあった。あの時本人は気づいていないようだった。目をつぶっていたとはいえあの驚き方。可能性は低いがすでに俺の命令を聞く体に変化し始めていたのかもしれない。琴音とは全く真逆な人間だったのにすごく意気投合していて兄としてはうれしかった。琴音の相談事にも美咲が聞いてくれたようでこれからの彼女に期待できる。

 俺に見せる美咲という存在はと別なもの。俺だけにしかわからない椎崎の姿は魅力的なものだった。だからこそ。今の椎崎美咲には魅力を感じがない。薫さんという大きな壁はあるとはいえ、椎崎美咲を手放すことはできない。あの人につくせばすむのかもしれないがそれでは椎崎美咲を手に入れても美咲の心は報われていない。俺のためでなく美咲のために解放してあげたいと思う。俺がそんなことを思う日がくるなんてな。それも文化祭の日があったからだろう。

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