第116話 争う気持ち

 俺の判断によって美咲が取り返せる可能性がでてきた。薫さんに俺が尽くせば美咲は帰ってくる。

「尽くすって何ですか?」

 そもそも俺が何をすれば尽くしたことになるかを聞かされていない。理不尽なことであれば結局取り戻しても意味がいない。

「私のかわりにあれを動かせばいいだけ。簡単でしょ。プライベートの時だけは君の大好きな状態に戻してもいい」

 薫さんの代わりに美咲を動かす。つまりおれが命令するってことか。

「いやですよ。わかってるでしょ」

 本人は自覚がないのかもしれないが美咲が傷つようなことを俺はしたくない。薫さんもそれは知っているはずだ。

「ならやめる?私は本気だよ。私にとってはあれはどうでもいいからね」

 薫さんはこちらに交渉する余地を与える気はなさそうだ。

「もし決裂したら?」

「邪魔するだけ。私の扱いやすいように常に改修する。手始めに危険人物である君から引き離すところからかな」

 引き離されれば薫さんのことだ。俺から引き離せば簡単に会うことができなくなる。完全に俺が不利。この土俵に立った時点でほぼ敗北が決まっていたようだ。

「さすがに今すぐ決めるのは無理です。時間をくれませんか」

「即決が希望だけど君をすぐに手放したら母に怒られし。二年生になるまででどう?その間は全力で邪魔するけどね」

 やく5か月。時間としては十分だ。

「わかりました。ではそれで。俺は全力で美咲を取り戻します」

「ほんとに君はあれに尽くすなんて。別わたしには関係ないからいいけど。伝える必要があることは話したから帰ろっかな」

 解放されるようだ。5か月の猶予をもらえた以外は完全に薫さんが一方的に進めていたな。

「そうだそうだ。これあげる」

 薫さんからくしゃくしゃになった紙が投げられた。

「これは?」

「あれの部屋で捨ててあった。君なら心当たりがあると思って。せいぜい頑張ってね」

 薫さんはそのままいなくなった。

 美咲の部屋の紙。俺に何かを残してくれているのだろうか。

 くしゃくしゃの紙を開く。文字が書いてある。

「倫太郎君に料理をふるまう。これからもできたらいいな」

 と書かれていた。

 この文章を見て鳥肌が上がった。美咲は俺の命令をしっかり聞いていた。そして俺にヒントを与えてくれた。美咲に何があっても自分のやりたいことを守るように伝えた。このメモはきっと薫さんが俺との思いでを無にした後に気づくようにつづったものだ。薫さんが消せなかったものとこれがつなぎ合わせれば美咲なら意味を理解するだろう。だが、疑問もある薫さんがなぜ俺にこれを残したのか。あの人ならこのロジックを理解するはず。あの人の本当の目的っていったいなんなんだ。

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