第107話 美咲・・・そして
美咲は俺をソファーの横に座るように命じた。座ると肩に頭をのせてくる。
「私は才能を持った家計に生まれた落ちこぼれでした。運動は最下位。テストは悪くなくても中途半端。コミュニケーションもうまくできない」
弱くかすれた声。少しでも俺以外にきかれないようにしているように思える。
「そんな私は母による教育を受けました」
「教育?」
これが教育の結果なんだとしたら失敗といっていい。テストの点はまだしも自分を隠して悪く見えないようにしているだけだ。
「母は自分の言うことは正しいといいます。そして、姉もまた自分の次に正しいと。だから正しい自分たちに従いまねてより良い生活を送るように私を鍛えたのです」
鍛える?なぜ美化をする。それはただの強制。虐待といってもいい。そのせいで美咲が自分を隠している。それの何が成功だという。
「倫太郎君、人のまねをするときに何が必要だと思いますか?」
「意思をすてること」
今の美咲をみればわかる。
「そうです。何も考えず自分の感情を捨てることです」
感情を捨てる。そういえば最初にあったとき不愛想だった。
「でも人間。そう簡単に消えません。楽しいことは楽しい。怖いことは怖いです。その感情は次第に私の殻を破る」
そうして俺と一緒にいるときの美咲が生まれたわけだ。おれだいぶ立役者だな。薫さんにあらがう手伝いができていることか。
「ほんとに感謝してます。まだ母にも姉にもあらがう気にはなれませんが倫太郎君とならいつかは元に戻れるそう思っていました」
だが、テストをきっかけにそれもかなわなくなる。
「どこかに行くのか?」
そんな俺から突き放してあの人たちがいう再教育を行う。さっきから考える美咲からの悲しい感情。それは別れを意味するのだろう。
「ある意味いきます。ご飯も作ってあげられなくなるかもです」
「そんなのどうでもいい。家から出るな。不登校にでもなればいいだろ。逃げるのは無理でもあらがうことは」
薫さんの実力を考えたら不可能だ。そんなの理解している。俺なんかで美咲を守ることはできない。
「私は倫太郎君と友達になれてうれしいです。だから私はあなたがこの領域に入ってくることは許しません。わかってください」
理解はできても納得はできない。だが、美咲にとってはその一つの感情も無駄な時間をすごすだけのもの。前に進むためには俺が耐えるしかない。
「いっこだけいいか?」
「なんですか?」
「たった一つだけでいい。これからどんな状況になっても自分のしたいこと。それだけは何があっても守れ。たかが原石のちっぽけな命令だ」
俺の言葉がこいつの力になるのなら。何個もだって贅沢は言わない。せめてこいつがやりたいことだけは残してやりたい。
「わかりました。絶対その言葉忘れません。では行ってきます」
椎崎が立ち上がりかばんを持って部屋を出ようとする。俺は必死に止めたいって気持ちはある。だが、体が動かない。今ここで止めることが正しくないと思っているからだろう。
美咲は最後に最高の笑顔を見せ来た。そして美咲は家に帰っていった。
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