第93話 椎崎は

 俺は屋上で椎崎に拘束された。理由はまったくわからない。汗の量がすごいことや床に置かれたペットボトルの本数からして結構長時間屋上にいたのが考えられる。

「拘束ってなんだよ」

「私が無事か確認だけしていなくなるつもりだったでしょ。あなたが私のことをよくわかるように私だって少しはわかってますから。あまくみないでください」

 俺がやることはお見通しのようだな。

「それで拘束する理由は?」

「ちゃんと話すべきだと思いまして。単刀直入にいうとふてくされてました。正論ぶつけられてむかつきました」

 椎崎が本音を話してきている。ここ最近の態度はそれが原因だったのだろう。

「本当であれば謝るべきだし感謝されるべき。でも、そう思っていてもなかなか言えなくて結局意識がそっちに行きすぎてみんなに迷惑かけましたごめんなさい」

 これが真実だったのか。それに加えて俺もどこか椎崎の話を聞かないようにしていた。それがこずれて雰囲気を悪くしていった。

「俺こそ。悪かった。誰よりも努力家なお前を馬鹿にした」

「そんなのどうでもいい。そのせいで。あなたは私を守るために。後ろから聞こえるあなたを罵倒するみんなの声。それを聞いたとき理解したんです。あなたが私を今のままでいさせつつミスを絶対させない状況を作っていると。全部私のせいで」

 俺が傷つくだけでなく椎崎も傷つけてしまっていた本来の目的からそれてしまった。

「悪かった。だが、これで終わりだ。もう夕食を作る必要もない」

 こうなってしまった以上自然消滅は難しい。直接話す以外の選択がない。双方が納得して円満で終われるならそれでも良い。

「わかってます。曖昧に関係気づいてしまったから互いに曖昧な距離感で過ごしたこと。私もやめるべきだと思います」

 椎崎も納得してくれて何よりだ。これで本当の意味で終わることができる。

「友達になりませんか?」

 椎崎の言葉に一瞬固まってしまう。

「何言ってんだ」

「椎崎っていうのは今日で禁止です。少なくとも私と二人きりの時は美咲と呼んでください。敬称は自由につけてもらっていいです。私はいつも通り倫太郎君にします」

 椎崎が一人走りし始めた。

「いったん冷静になれ。自分が何を言ってるのか理解しているのか?」

「え、と学年の嫌われ者と友達になると決めただけですけど」

 いきなり煽り言葉も入れてくる。こいつ予想以上に余裕が戻ってきてるな。

「さっきまでの焦りはどこいったんだよ」

「あなたにあんなにドストレートに言われて二時間考えたらそりゃ回復するでしょ。いわゆる吹っ切れました」

 俺の反応が間違っているのか。絶対ない。明らかに椎崎の開き直り方が悪い。

「俺の必死の気持ち返せよ」

「そう簡単に離れると思わないでください。私は倫太郎君のこと好きなんですから。あ、もちろん友人としてですからな変な勘違いはお控えください」

 本当にいつもの椎崎に戻ったようだ。俺の覚悟はなんだったんだ。

「俺が嫌われやくになってでも終わらせようとした苦悩は無だったのかよ」

「だから違いますって。それくらい覚悟持った重さをかんじる言葉だったからこそ私も目をさましたんです。実行委員として気づいたもの全てを捨てる覚悟の行動に目をさましたんですから」

 とりあえず無駄でなかったってことでいいのだろうか。椎崎が目を覚ますために必要だった。信用しがたいがそう思っておいた方が俺の気持ちが晴れるってものだな。

「ったくなら、さっさと先輩のとこいって頭下げに行くぞ。打ち上げもあるんだからな」

「あなたも誘ってもらえるなんてすごい心の広い方ですね」

「そうだよ」

 いつものってたいそうなものでもないが一瞬で帰ってきたなこの日常。俺らは新しく友達になったというわけだ。


「やっぱり私はあなたが必要です。お姉ちゃんじゃなくてあなたにつくしたい」

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