第274話 双葉の訪問

 保健室の椅子に座ったまま、俺は軽くため息をついた。まさか美咲の策略に乗せられる形で、ここに足止めされることになるとは……。


 まぁ、適当に時間を潰してから戻ればいいか。そう考えながら、少し目を閉じたその時——。


「倫くん、いる?」


 不意に、扉の向こうから聞き慣れた声がした。


(……双葉かよ)


 少し嫌な予感がする。俺がここにいることを知って、様子を見に来たんだろう。


「いるけど、どうした?」


 一応返事をすると、双葉はひょこっと顔を覗かせ、そのままズカズカと中に入ってきた。


「やっぱりいた。大丈夫? なんか具合悪そうだった?」


「……まぁ、ちょっとな」


 適当にあしらうため、わざとダルそうな声を出す。美咲に乗せられたことを話せば今から確実に突撃にくる。かなりめんどくさくなる。俺だけが敵にされるのはいいが双葉まで巻き込まれたらやっかいだ。

 双葉は心配そうに俺を覗き込むと、眉をひそめた。


「珍しいね、倫くんが保健室とか。熱とかじゃない?」


 かなり心配されている。


「いや、ただの寝不足だ。ちょっと休めば平気だよ」


 なるべく自然に、適当に受け流す。双葉は俺の顔をじっと見た後、少しだけ納得したように頷いた。


「そっかぁ……ならいいけど。あ、もしかして、さっきの噂のせい?」


「噂?」


「なんか、倫くんがみさきーに何かしたんじゃないかって、一部で騒がれてるよ」


 美咲は俺を擁護するつもりは全くないようだ。やはり悪魔だ。ま、あいつは恩を仇で返すやつでないし、それ相応の恩返しが返ってくるだろうから、怒るのはそれがきてからの判断に委ねよう。


 というか美咲の一言でそうなるとは結局あいつの狙い通りってわけだな。


「違うよ。ただ、俺も少し体調悪くて保健室にいただけ」


「そっかぁ。でも、変な噂広まるとややこしいよね」


「まぁ、気にしないさ。ほっとけばすぐ収まるだろ」


 そう適当に言って、再び椅子に寄りかかる。双葉はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、俺があまり相手にしないのを察したのか、小さく息をついた。


「じゃあ、あんまり無理しないでね。後で教室でね」


「ああ」


 そう言って、双葉は保健室を後にした。


 これでもう俺を邪魔するとしたら美咲信者が怒ってくることくらいだろう。流石に大和たちまでくるってことはないよな。そう信じたい。


「りんたろうっちいる?」

 上野は様子を見にくるやつだと忘れていた。

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