第55話 寝るまでの時間

 ご飯を食べ終えた椎崎。顔色も多少はよくなった気がする。

「お邪魔だろうし俺は帰るとするか」

 俺と話すより休む時間が必要だろうからな。

 立ち上がり帰ろうとする。すると彼女なりの全力の力で手組をしっかりつかんでくる。

「あのあなたが良いようなら寝るまで一緒にいてくれませんでしょうか」

 熱を出した椎崎はほんとに普段と真逆の状態だ。ここまで甘えることはプライドが許さないだろうに。

「わかったよ」

 再び座る。

「こうなると話すことないですね」

「だな。普段も別に話してることはない。基本的には俺への一方攻撃だし」

「そういえば、大和君と仲いいんですか?」

 がんばってひねりだしたのが大和と俺の仲か。ほんとに話題ないんだな。そしてこの話題を振った時点で彼女が何を言いたいかは大体冊子がつく。

「あっちが一方的にな」

「大和君で大丈夫ならそろそろ学校でも解禁でよくないですか?」

 そうなるよな。

「やめてくれ。いろいろごじれるから」

 大和とは互いん気の使いあいで仲良くできそうだが双葉とは確実に対立がうまれる。学校での仲はあまり崩したくない。

「これが男女の差ってやつですか。私だって倫太郎君と普通に話したいです」

 もう友達かもしれないとはいえない。家の鍵も手に入れたことだし。れっきとした友人関係をきずいていると思う。まぁだからといって椎崎と学校で普通に話したりでもしたら男との喧嘩が始まる。うられたら返すつもりだがまた停学。へたしたら退学になるからな。

「我慢してくれ。学校が無理な分夜は何もなければいてやる」

「なら、大和君を信じて倫太郎君が人気になるのを待つしかないですね」

 だんだんうとうとしてきてる。そろそろ寝る頃か。

「人気になったらな」

「楽しみにしてます」

 力の抜けた声。だんだんと声が抜けていく。

「寝たか」

 そのまま眠りについた。寝顔のかわいさの破壊力もものすごいな。明日も休んでよくなればよいが。

「倫太郎君」

「なんだ?」

 寝たはずの椎崎に呼ばれた。

「倫太郎君」

 なんだ寝言か。寝言で俺の名前呼ぶってなんだよ。

 椎崎のことはよくわからんがだんだんと負けづ嫌いのレベルは理解してきた。負けたくないとかそういうプライドの問題もたしかにある。だがそれよりも純粋にこいつの優しさからだろう。守るべきものの主語はつねに自分ではなく。ほかの人に迷惑をかけないように自分を隠すこと。それが椎崎美咲のいいところなのだろう。だから周りから好かれることも知っている。

 長居は無用だし帰るとするか。玄関だけは少しだけキレイにして。


「倫太郎君は休むことを許してくれる人なんだ…」

 

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