第143話
エスカレーターで上に上がっていく。美咲の表情はなく真顔だが内に秘めたワクワクは抑えられていないようだ。
「おまえさ別に学校の日でなくてよくないか。休日の方が誰にもバレずにこれたんじゃないか」
制服である時点で目立つ。そして同じ学校のかわいいやつってだけで美咲を知るやつはもしかしたらと思うだろう。そして俺が隣にいるで完全にゲームオーバーであるそんなリスクをおってまでいきたいのだろうか。
「私だってそれくらい知ってます。ですが抽選で外れて空いたところを抽選で当てたんです。欲しいグッズがなくなる可能性を考えたらある程度の無理は許容にしました」
こいつガチ勢だ。しっかりグッズを集めるって相当気に入っているだろ。
「そうですか」
「もうつきますよ」
6回まで登り終えた。するとすでに列ができていた。全身がふわふわとした柔らかい毛で覆われており、毛の色はクリーム色や淡いグレーなど、優しい色合いが特徴的なネズミだった。たしかにかわいくはあるがここまで人気になるものなのだろうか。
「並ぶか」
「まだ時間じゃないです」
バッグからちゃんとしたカメラを手に取る。そして制服を気にせず膝をついてねずみたちの撮影を始めた。
「それ重かったろ」
「だからここまで来るの大変だったんですよ。ここに来れただけでも満足してます」
シャッター音が止まらない。ひとつのパネルだけでいろんな角度から撮影を繰り返す。表情からは楽しさが伝わらないのに行動だけですごく楽しいことがわかる。
「俺ベンチ座ってるわ」
「わかりました。終わったら行きます」
さすがに眺めてるだけだし近くにあったベンチに座った。そこから美咲は自分の持ってきたグッズも並べて撮影したりしていた。今までの好きとは比べ物にならないくらいの力の入れ方をしている。美咲がかわいいのが好きなのを知っているとしてもこの光景はさすがに引いている。
急にカメラで撮影をする手を止めスマホを見る。かかさず全部をバッグにいれて俺のとこにきた。
「時間ですので並びますよ」
夢中になりすぎてあやうく時間よりも遅れる可能性あったのか。
列の前の方に並べた俺たち。
「私は左から攻めますので草加君は右からで。これリストです」
紙を一枚渡された。そこには好きなネズミの種類について細かく書かれておりどの商品が欲しいのかを記載してある。
「いいですかクリーム色ですからね」
さらに念を押してくる。
「わかったよ」
もはや買うことへの抵抗などさせる気のない威圧に聞くことすらできる余裕がない。
そしてついに入ることができた。そのとたん美咲は商品を見始める。俺は右からか。美咲からもらった紙を見ながら商品を探す。そこまで多くなく予想よりも良心的だった。これならここまでガチになる必要もなかったと思ってしまう。
クリーム色という特徴をわかっていなかったら正直判別が大変になる。色以外似ている。アクリルスタンドに、アクリルチャーム。マグカップと次々商品をかごにいれていく。そしてすぐに椎崎と合流できた。
「これは。予定にないし。予算を考えてもこれを買うならほかの商品をあきらめないとだし…」
独り言がだだもれである。ミニフィギュアを買うか悩んでいるようだ。
「でもこれもこれもないと困るしこれは。でも」
スマホのリストをみながらいろいろと検討しているようだ。事前にピックアップしてはずが当日になってほしくなってしまう現象だな。
「諦めよ。もともと買うつもりなかったものだし…。草加君。ありがとうございます」
どこかもやもやしているように思える。たった一つのアイテムにここまで辛くなるのだろうか。俺には何の感情も見せないのに。
「俺これかお」
そこまでしてもこいつが欲しいものそんなの見せられたらなんとかしたくなってしまう。
「え?」
「お前の誕生日知らないが誕プレ」
「いいんですか」
「誕プレだからな。当日ねだるなよ」
「ねだりません。ありがとうございます」
遊園地という特別な空間を除いて久しぶりに見た真顔だった少女がみせた笑顔がこれか。ま、いいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます