第48話 これの存在

 アパートについて最初に目が入ったのはくるまである。学校でみた椎崎の姉の車が止まっている。あの人がいるのか。看病でだよな。

 階段を上っていく。思い違いだと思っているが一段一段重くなっていく。

 いつもなら部屋までの階段もやっとの思いでのぼりきった。

 部屋の前は変わった様子はない。やはり考えすぎだったようだ。

「やっと帰ってきた」

 カギを開けるタイミングで隣の部屋の扉があく。椎崎の姉が顔をだしてきた。

「はいこれ」

 カギを渡してくる。

「なんですか?」

「隣の部屋だけど」

 さらっと女子のは部屋のカギを渡してくるとか大丈夫なのか。

「いりません」

 とはいえ、女子の部屋に入ろうとは思えない。

「すごい高熱だから看病したほうがいいよ」

 高熱といっているようだがそこまで心配している様子がない。どちらかというと邪魔者に思っているようにも感じる。この二人の関係は俺が考えてもどうしようもないものなのだろう。

「あなたがすればいいじゃないですか」

「私が?なんで?これに時間かける意味がわからない」

 またこれか挑発かと思ったが普段から椎崎をそういう扱いにしているだろう。

「ずっとそうですけど椎崎をこれっていうのやめてください。普段いうのは勝手ですけど」

 椎崎なら表と裏をはっきりしている。この人はあえて椎崎への態度を全く変えていないのだろう。別に俺がそう思ったからといってこの人が態度を変える気もしないが。とても不愉快だ。

「しかたない君の時だけは美咲ちゃんって呼んであげるか」

 そして呼び方が真反対になった。思ったより人のお願いは聞くタイプなのか?いやこれも観察の一環なのだろうな。

「そうしてください」

「じゃ。美咲ちゃんの看病よろしく。私はただ家まで運んだだけだらか。ここからは君の役目。カギは。美咲ちゃんから直接受け取ったってことにしておいて。じゃぁね」 

「わかりました」

 あきらめよう。この人が説得を応じることはない。椎崎を放置するわけにもいかないしおとなしく従って椎崎の様子でもみにいくか。

「あ、そうだ私名乗ってなかったね。まつ、椎崎薫。よろしくね倫太郎君」

 帰り際でようやく名前をしることができた。薫さんか。もうあいたくはない人だが今後も椎崎とかかわるのならこの人とも関係を築くのは必須なのだろう。

「よろしくお願いします」

 椎崎姉が帰っていった。

 初めての椎崎のいえ。必要なことだから仕方ない。仕方ないんだ。文句なら俺でなく椎崎姉に行ってくれ。

 

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